解雇制限【学校法人専修大学事件】

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学校法人専修大学事件 事件の概要

大学では労働者災害補償保険法(労災保険法)による給付以外に、職員の業務上の災害補償に関して、災害補償規程を定めていました。災害補償規程には、次の内容が定められていました。

  1. 職員が業務災害により欠勤し、3年が経過しても就業できない場合は休職とすること(勤続年数が10年以上20年未満の者については、休職期間を2年と定めていました。)
  2. 休職期間が満了しても休職事由が消滅しないときは、職員を解職すること
  3. 大学が2.によって解職するときは、労働基準法第81条の規定を適用し、打切補償金として平均賃金の1200日分を支払うこと

職員が頸肩腕症候群という診断を受け、欠勤を繰り返した後、長期にわたって欠勤することになりました。

また、労働基準監督署は、その頸肩腕症候群は業務上の疾病によるものと認定し、労災保険法に基づいて、療養補償給付と休業補償給付の支給を決定しました。

そして、欠勤して3年が経過したのですが、就労できない状態でしたので、大学は2年間の休職としました。その後、2年間の休職期間が満了したのですが、職員は復職できませんでした。

災害補償規程に基づいて、大学は打切補償金として平均賃金の1200日分(約1600万円)を支払った上で、職員を解雇しました。

これに対して職員が、解雇は無効であると主張して、労働契約上の地位を有することの確認等を求めて、大学を提訴しました。

学校法人専修大学事件 判決の概要

業務災害に対する補償については、労働基準法の第8章において、使用者の災害補償義務が規定されている。

労災保険法の第12条の8第1項には、労災保険法の保険給付が列挙されており、第2項には、各保険給付は労働基準法で規定されている災害補償の事由が生じた場合に行うことが規定されている。

また、労働基準法第84条第1項によって、労働者が労災保険法から各保険給付を受けたときは、使用者は災害補償の義務を免れることが規定されている。

そして、労災保険法第12条の8第1項の第1号から第5号までの各保険給付は、労働基準法第75条(治療費の負担)第76条(休業補償)第77条(障害補償)第79条(遺族補償)第80条(葬祭料)に定められた災害補償にそれぞれ対応している。

労災保険制度は、労働基準法に基づいて使用者が災害補償義務を負うことを前提として、その負担を緩和しつつ、被災した労働者を迅速かつ公正に保護するために、使用者に代わって災害補償(保険給付)を行う制度と考えられる。

労働基準法第81条の打切補償の制度は、使用者が相当額の補償を行うことによって、以後の災害補償を打ち切るとともに、解雇制限の除外事由(労働基準法第19条第1項ただし書)とし、労働者の療養が長期間に及ぶことにより生じる負担を免れることを可能とする制度である。

労働基準法により使用者に義務付けられている災害補償に代わって、労災保険法に基づいて保険給付が行われている場合は、実質的に災害補償が行われている。

したがって、労働基準法第19条第1項但し書きの適用(解雇制限の除外事由)の有無は、使用者が自ら負担して災害補償を行う場合と、これに代わって労災保険法に基づいて保険給付が行われている場合と、では変わらない。

また、後者の場合は打切補償が支払われても、傷害又は疾病が治るまでの間は労災保険法に基づいて療養補償給付が支払われることを勘案すると、労働者の保護を欠くものではない。

そうすると、労災保険法の療養補償給付を受ける労働者は、解雇制限の適用を除外する打切補償について定められている労働基準法第81条の「第75条の規定によって補償を受ける労働者」に含まれる。

したがって、労災保険法の療養補償給付を受ける労働者が、療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合は、労働基準法第75条によって療養補償を受ける場合と同様に、使用者が打切補償を支払うことによって、解雇制限の除外事由(労働基準法第19条第1項ただし書)の適用を受けることができる。

大学は、労災保険法の療養補償給付を受けている職員が療養開始後3年を経過してもその疾病が治らないことから、平均賃金の1200日分相当額を支払った.

これは、労働基準法第81条にいう「第75条の規定によって補償を受ける労働者」に対して打切補償を行ったものとして、労働基準法第19条第1項但し書きの規定により、解雇制限は適用されない。本件解雇は、労働基準法に違反するものではない。

解説−解雇制限

労働基準法で定められている解雇制限が適用されるかどうかについて、争われた裁判例です。

労働基準法第19条によって、従業員が業務上の傷病のため休業している期間とその後の30日間は解雇が禁止されています。これを「解雇制限」と言います。

労働基準法第19条には続き(但し書き)があって、「第81条の規定によって打切補償を支払う場合」は解雇制限の適用が除外されます。つまり、解雇が可能になります。

そして、労働基準法第81条では、「第75条の規定によって補償を受ける労働者」に対して、平均賃金の1200日分の打切補償を支払うことが定められています。

更に、労働基準法第75条では、「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない」と規定されています。

裁判で問題になったのは、この規定の捉え方です。

学校が直接療養の費用を負担している場合に限定する、つまり、労災保険から給付が行われている場合は含まない、というのが職員の主張です。

これに対して最高裁は、学校に代わって労災保険から給付を受けている場合も含むと判断しました。理由は以下のとおりです。

労災保険制度は、使用者が労働基準法上の災害補償義務を負うことを前提として、使用者の負担を緩和しつつ、被災者の保護を確実なものとするために成立した制度です。

また、労災保険の給付内容は労働基準法の災害補償の内容とほぼ同じため、使用者から給付が行われても、労災保険から給付が行われても、被災者にとっては実質的に変わりません。

このことから、解雇制限の適用除外(労働基準法第19条第1項但し書き)に関しては、使用者が直接災害補償を行っている場合と、労災保険法に基づいて保険給付が行われている場合と同等に取り扱われることが示されました。

なお、解雇制限が適用されないとしても、大学が行った解雇が有効かどうかは、また別の問題です。

労働契約法第16条によって、正当な解雇理由の有無(客観的に合理的な理由があるかどうか、社会通念上相当かどうか)が問われます。

この裁判は高裁に差し戻されて、解雇は有効と判断されました。