有給休暇の時季変更権【電電公社関東電気通信局事件】

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電電公社関東電気通信局事件 事件の概要

会社の整備課は、装置の点検、試験、修理、増設等の業務を分掌していて、これらの業務を運営するためには最低2名の人員を配置する必要がありました。

整備課には、課長等の管理者が2名、その他の一般従業員が11名在籍していました。土曜日は半日勤務で、11名の一般従業員の中から2名又は3名が、勤務割(シフト制)によって、4週間に1回の周期で出勤することになっていました。

通常、一般従業員が土曜日に年次有給休暇を取得して要員が不足したときは、他の一般従業員に出勤を命じることはなく、管理者が欠員の補充に当たっていました。それに備えて、管理者は隔週交替で半日勤務をしていました。

そして、2名が配置されていた5日後の土曜日を指定して、従業員が年次有給休暇を請求したのですが、管理者はその日に別の外せない業務があり、管理者による欠員の補充が不可能になりました。

課長は、1名の配置では業務に支障が生じると考えたのですが、他の一般従業員に休日出勤を打診するなど、代替勤務できる者を確保する努力をしないまま、時季変更権を行使しました。

従業員は課長の指示命令に従わず、当日に出勤しなかったため、会社は懲戒処分(戒告)を行うと共に、欠勤扱いとして賃金を減額しました。

これに対して従業員が、懲戒処分(戒告)の無効、及び、未払い賃金の支払いを求めて、会社を提訴しました。

電電公社関東電気通信局事件 判決の概要

労働基準法によって、従業員が請求した日に年次有給休暇を与えると、事業の正常な運営を妨げることになる場合は、会社による時季変更権の行使が認められている。

時季変更権を行使できる要件である「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するかどうかを判断する上で、代替要員を確保することの難易は要素の1つであり、特に勤務割(シフト制)で決定している会社においては重要な要素となる。

勤務割(シフト制)で出勤日を決定している会社において、従業員が年次有給休暇を請求したときに、会社として通常の配慮をすれば、勤務割(シフト)を変更して代替要員を確保できるにもかかわらず、会社が配慮を怠って代替要員を配置しなかったときは、「事業の正常な運営を妨げる場合」には該当しないと考えられる。

そして、従業員が年次有給休暇を請求したときに、会社として通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替要員を確保できる状況にあったかどうかは、次のような事情が考慮される。

  1. 年次有給休暇が請求されたときに、勤務割(シフト)の変更が、どのような方法で、どの程度行われていたか
  2. 年次有給休暇の請求に対して、会社はこれまでどのように対応していたか
  3. 代替勤務が可能であったか(従業員の作業の内容や性質、補充要員の作業の繁閑など)
  4. 代替要員を確保するための時間があったか(余裕をもって請求されていたか)
  5. 休日がどのように与えられていたか(変更されていたか)

これらを考慮して、会社が通常の配慮をしたとしても、代替要員を確保できなかったと認められる場合は、会社が代替要員を確保するために具体的な努力をしなかったとしても、そのことによって時季変更権の行使が違法になることはない。

事実関係によると、これまで一般従業員の休日を変更したことはなく、休日出勤は命じないという認識が労使間に定着していた。また、最小人員しか配置していない土曜日に、従業員が年次有給休暇を請求したときは、管理者が欠員の補充に当たっていた。

そして、従業員が年次有給休暇を請求した日は、管理者による補充ができない状況であった。勤務割(シフト)の変更の実態、休日の与え方、代替要員の確保の難易等を考慮すると、会社が通常の配慮をしたとしても、代替要員を確保できなかったと認められる。

したがって、従業員が請求した日に年次有給休暇を与えることは、会社の事業の正常な運営を妨げる場合に該当し、会社が行った時季変更権の行使は適法である。

解説−有給休暇の時季変更権

労働基準法(第39条第5項)によって、次のように規定されています。

「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」

原則的には、従業員が請求した日(時季)に、会社は年次有給休暇を与えないといけません。ただし、その日に年次有給休暇を取得されると、事業の正常な運営を妨げることになる場合は、会社は取得日を他の日(時季)に変更することが認められています。

これを「時季変更権の行使」と言って、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するかどうかがポイントになります。

放っておいたら事業の正常な運営を妨げることになるけれども、会社が努力(通常の配慮)をすれば正常な事業運営が可能になる場合は、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当しないと考えられています。時季変更権を行使しても認められません。

そして、会社に対して、どの程度の努力や配慮が求められるのか争われたのが、この裁判です。

事業の正常な運営を妨げることがないように、会社が代替要員を確保できる場合は、代替要員を確保することが求められます。

代替要員を確保しようとすればできたけれども、会社がそれを怠っていた場合は、時季変更権の行使は認められません。事業の正常な運営を妨げる結果を招いたのは、会社の自己責任ということになります。

代替要員を確保できない状況で、事業の正常な運営を妨げることになる場合は、時季変更権の行使は認められます。

この会社では、代替要員を確保するために、具体的な行動を伴う努力や配慮をしていなかったのですが、勤務割(シフト)の変更の実態、休日の与え方、代替要員確保の難易等を考慮して、努力や配慮をしたとしても代替要員を確保することはできなかったと認められ、時季変更権の行使は適法と判断されました。

考慮する要素として、次の事項が列挙されました。

  1. 勤務割(シフト)の変更の方法や頻度
  2. 年次有給休暇の請求に対する会社の対応
  3. 代替勤務の可能性や難易度(従業員の作業の内容や性質、補充要員の作業の繁閑など)
  4. 代替要員を確保するための時間的な余裕
  5. 休日の与え方

この会社では、代替要員を確保するための努力や配慮をしていませんでしたが、一般的には「休日出勤をしてもらえないか?」と他の従業員に打診することが望ましいです。結果が駄目であっても、会社は努力や配慮をしていたと認められやすくなります。

また、この会社では、普段は管理者が欠員の補充に当たっていたのですが、たまたまその日はそれができない特別な事情があった点も重要です。普段から代替要員を確保できない場合は、時季変更権を行使しても認められません。例外的な事情があった場合に限り、認められます。

なお、時季変更権は、年次有給休暇の取得日の変更が認められるだけで、年次有給休暇の取得を拒否することまでは認められていません。