有給休暇の時季変更権【中原郵便局事件】

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中原郵便局事件 事件の概要

郵便局の職員が、時季を指定して3日間の年次有給休暇を請求しました。

課長(郵便局)は、年次有給休暇を取得すると、必要な人員を欠き、業務に支障が生じることを理由にして、時季変更権を行使しました。

しかし、当日、職員はこれを拒否して、出勤しませんでした。郵便局は無断欠勤と判断して、就業規則に基づいて、懲戒処分(減給処分)を行いました。

これに対して職員が、時季変更権の行使は無効であると主張して、年次有給休暇の賃金の支払いと懲戒処分の取消しを求めて、郵便局を提訴しました。

中原郵便局事件 判決の概要

職員が請求した年次有給休暇に対する時季変更権の行使を適法とした原審の判断は、正当として是認することができる。

東京高裁(原審)

が認められる。このような取扱いを不当・不合理とする理由はない。

郵便局(課長)は、余剰人員の有無、欠務予定者の年休取得の時期等を検討、確認した上で、職員に対して時季変更権を行使したものであり、時季変更権の行使は適法・有効である。

解説−有給休暇の時季変更権

郵便局の職員が年次有給休暇を請求したのですが、郵便局は欠員により業務に支障が生じることを理由にして、時季変更権を行使しました。時季変更権の行使が、有効か無効か争われた裁判例です。

従業員が入社して6ヶ月間継続勤務をすれば、年次有給休暇を取得できることが、労働基準法で認められています。

そして、従業員は指定した時季に年次有給休暇を取得できるのですが、「事業の正常な運営を妨げる場合」は、会社は取得時季を変更できることが、労働基準法で定められています。

この「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するかどうかは、労使間で思い違いが生じやすいです。それぞれのケースごとに、次のような事情を考慮して、客観的に判断することになっています。

この裁判では、先に欠務を予定している者がいて、代替勤務できる者がいない状況で、年次有給休暇を取得すると必要な人員を欠くことから、時季変更権の行使は適法・有効と判断しました。

「欠員が生じるから」というのが大きな理由ですが、「欠員が生じるから」と言って、安易に時季変更権の行使が認められる訳ではありませんので、注意が必要です。

仮に、人員不足が常態化している場合まで認められると、ずっと年次有給休暇を取得できないことになります。年次有給休暇の趣旨に反しますので、そのような場合は、欠員により業務に支障が生じるとしても、時季変更権の行使は違法・無効と判断されます。

たまたま年次有給休暇を取得する者や研修等で勤務を外れる者が重なって、必要な人員を欠いて業務に支障が生じると予想される場合に限り、時季変更権の行使は有効と認められます。

「有給休暇の時季変更権」に関して、次のような裁判例があります。
「弘前電報電話局事件(会社の配慮-違法)」
「横手統制電話中継所事件(会社の配慮-違法)」
「電電公社関東電気通信局事件(会社の配慮-適法)」
「高知郵便局事件(時季変更のタイミング)」
「此花電報電話局事件(当日の請求と時季変更)」
「時事通信社事件(長期休暇)」
「国鉄郡山工場事件(争議行為)」
「道立夕張南高校事件(一斉休暇闘争)」
「新潟鉄道郵便局事件(事業の正常な運営を妨げる場合)
「千葉中郵便局事件(欠員の発生)」
「中原郵便局事件(欠員の発生)