有給休暇の時季変更権【千葉中郵便局事件】

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千葉中郵便局事件 事件の概要

交替制で勤務をする郵便局の職員が、時季を指定して年次有給休暇を請求したのですが、郵便局は欠員として許容できる人員を超えることを理由に、時季変更権を行使しました。

しかし、職員はそれに従わないで、請求した日に出勤しませんでした。郵便局は、出勤しなかったことを理由にして、戒告処分を行いました。

これに対して職員が、時季変更権の行使は無効であると主張して、戒告処分の取消しを求めて、郵便局を提訴しました。

千葉中郵便局事件 判決の概要

職員が請求した時季に年次有給休暇を与えることは、労働基準法第39条第5項但し書きの「事業の正常な運営を妨げる場合」に当たり、戒告処分は適法であるという原審の判断は、正当として是認することができる。

東京高裁(原審)

労働基準法第39条第5項但し書きの時季変更権を行使する際は、郵便局は諸般の事情を総合的に検討した上で、年次有給休暇を与えることによって、事業の正常な運営を妨げることになるかどうかを判断すべきである。

その判断のために合理的な基準を予め設定することは、客観性が増して、年次有給休暇の請求を適正に処理するために、有用かつ妥当な方法である。

郵便局が郵便課の業務運営のために定めた欠務許容人員という基準は、郵便課における定員、現在員、週休定員及び予備定員の員数並びに業務の実情に照らして、業務の支障の有無の判断基準として合理的なものと認められる。

そして、年次有給休暇の請求の処理に当たって、郵便局は欠務許容人員という基準だけではなく、予測される業務量と対比しながら、補充できるかどうかも検討した上で、業務の支障の有無を判断して、時季変更権を行使するかどうかを決定していた。

この年次有給休暇の処理方法に則って、職員が請求した11月19日、25日、26日、及び12月9日の年次有給休暇のうち、郵便局は、11月19日は年次有給休暇を付与したが、25日、26日、及び12月9日は付与しないこととして、時季変更権を行使した。

職員が請求した年次有給休暇を付与しなかったことは、年次有給休暇の制度の趣旨に照らして、労働基準法第39条第5項但し書きによる時季変更権の行使として、適正で妥当な措置である。

職員が年次有給休暇を請求した11月25日、26日、及び12月9日は、郵便局が時季変更権を行使したことによって、職員の服務は免除されなかった。

時季変更権の行使は同時に、上司である課長が職員に対して、11月25日、26日、及び12月9日に服務すべき旨を指示する職務上の命令に他ならない。

職員は、3日間の服務を欠いたことによって、上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない義務に違反し、その職務を怠った。

これは懲戒事由に該当するから、郵便局が職員に対して行った戒告処分は、適法かつ有効である。

解説−有給休暇の時季変更権

従業員が年次有給休暇を請求して、会社が時季変更権を行使して、従業員がそれに応じないでトラブルになった裁判例です。

労働基準法(第39条第5項)によって、次のように規定されています。

「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」

原則的には、従業員が請求した時季に年次有給休暇を取得できるのですが、“事業の正常な運営を妨げる場合”は、取得日を他の時季に変更することが認められています。

“事業の正常な運営を妨げる場合”に該当するかどうかがポイントになります。

この会社(郵便局)では、業務に必要な従業員数を予め設定していたのですが、病気休暇や特別休暇を取得する者が重なって、この従業員の年次有給休暇の取得を認めると欠員が生じることになり、時季変更権を行使しました。

また、当時は36協定が締結されていなかったため、時間外勤務や休日勤務によって欠員を補充できないという事情もあったことから、結果的に、会社(郵便局)が行った時季変更権の行使は有効と認められました。

したがって、出勤できない者が一定数存在して、その上で年次有給休暇を取得すると欠員が生じて、納期が遅れる等、業務に支障が生じる場合は、時季変更権の行使は有効と認められる可能性が高いです。

ただし、他の従業員が時間外勤務を行ったり、休日勤務を行ったりして、補充して業務を処理できる場合は、そうするべきです。

そのような特別な事情がない通常時の場合は、時季変更権の行使は無効になる可能性が高いです。

「有給休暇の時季変更権」に関して、次のような裁判例があります。
「弘前電報電話局事件(会社の配慮-違法)」
「横手統制電話中継所事件(会社の配慮-違法)」
「電電公社関東電気通信局事件(会社の配慮-適法)」
「高知郵便局事件(時季変更のタイミング)」
「此花電報電話局事件(当日の請求と時季変更)」
「時事通信社事件(長期休暇)」
「国鉄郡山工場事件(争議行為)」
「道立夕張南高校事件(一斉休暇闘争)」
「新潟鉄道郵便局事件(事業の正常な運営を妨げる場合)
「千葉中郵便局事件(欠員の発生)」
「中原郵便局事件(欠員の発生)