有給休暇の時季変更権【道立夕張南高校事件】

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道立夕張南高校事件 事件の概要

労働組合が集会を企画して、組合員に対して、職場には年次有給休暇を届け出て、集会に参加するよう指示しました。なお、年次有給休暇の時季変更権が適正に行使された場合であっても、集会への参加を強制するものではありませんでした。

労働組合の指示に従って、組合員である教職員は集会の日を指定して、年次有給休暇を請求しました。また、当日に予定していた授業については、予め授業の振替、自習課題用の印刷物の配布及び他の教職員に指導を依頼する等の対応をしていました。

高校(校長)は、年次有給休暇に名を借りた同盟罷業(ストライキ)であるとして、年次有給休暇の時季変更権を行使しましたが、教職員はこれを拒否して、当日は出勤しませんでした。

教育委員会(高校)は、無断欠勤を理由として、戒告処分を行いました。

これに対して教職員は、時季変更権の行使は違法であると主張して、戒告処分の取消しを求めて、教育委員会(高校)を提訴しました。

道立夕張南高校事件 判決の概要

休暇日を従業員がどのように利用するかは、年次有給休暇の成否には影響しない。

しかし、その企業の業務の正常な運営を阻害することを目的として、年次有給休暇を利用して職場を離脱する、いわゆる一斉休暇闘争は、本来の年次有給休暇の趣旨とは異なる。年次有給休暇に名を借りた同盟罷業(ストライキ)であるから、その日に年次有給休暇が成立する余地はない。

そのような職場離脱は、年次有給休暇の形式を取っていても、企業の時季変更権の行使を無視して、業務の正常な運営を阻害することを目的としている。そこには、企業が適法に時季変更権を行使することによって、事業の正常な運営を確保できるという年次有給休暇の制度が成立するための前提が欠けている。

そして、一部の従業員のみが参加する休暇闘争であっても、同様に、企業の業務の正常な運営を阻害することを目的としたものであれば、同盟罷業(ストライキ)となり得る。

これを本件に照らし合わせると、労働組合が企画した集会への参加の指示は、適法な時季変更権の行使があった場合に、これを無視してまで参加することを強制したものではないし、業務の正常な運営を阻害することを目的としたものでもない。

教職員が労働組合の指示に従って、集会に参加するために、年次有給休暇の時季を指定して就労しなかったことをもって、年次有給休暇に名を借りた同盟罷業(ストライキ)ということはできない。

高校(校長)による時季変更権の行使は、労働基準法第39条第5項但書の事業の正常な運営を妨げる事情が認められないことから、違法である。

したがって、教職員が請求した年次有給休暇は成立し、就労義務は消滅していたことになるから、無断欠勤を理由として行われた戒告処分は、その前提を欠くもので、無効である。

解説−有給休暇の時季変更権

労働組合が企画した集会に参加するために、従業員(教職員)が年次有給休暇を請求したのですが、会社(高校)が時季変更権を行使しました。従業員(教職員)がこれを無視して、出勤しなかったことを理由にして行った戒告処分(懲戒処分)が、有効か無効か争われた裁判例です。

時季変更権を行使については、事業の正常な運営を妨げる場合に該当するかどうかでトラブルが生じやすいですが、それに組合活動が絡んでくると、更に問題が複雑になります。

年次有給休暇の取得は、労働基準法によって従業員に認められた権利ですので、休暇日の利用目的を会社に明示する必要はありません。利用目的について、会社が干渉することは許されません。

同盟罷業(ストライキ)についても、労働組合員(従業員)に認められた権利ですが、争議行為に当たりますので、無給で処理をすることになります。

また、「一斉休暇闘争」と言って、業務の正常な運営を阻害することを目的として、一斉に同じ時季に年次有給休暇を取得する方法があります。

しかし、年次有給休暇の制度が成立する前提として、事業の正常な運営を妨げる場合は、会社は時季変更権を行使することが認められています。

適正に時季変更権を行使したときは、労働組合員(従業員)は応じる義務がありますので、年次有給休暇を利用する限りは、応じないという選択はあり得ません。

したがって、時季変更権の行使を拒否する一斉休暇闘争は、年次有給休暇に名を借りた同盟罷業(ストライキ)であって、年次有給休暇が成立する余地はありません。同盟罷業(ストライキ)と年次有給休暇は両立しませんので、どちらか一方だけ成立することになります。

そして、この裁判は、労働組合の集会に参加するために年次有給休暇を請求したケースですが、それだけで同盟罷業(ストライキ)と判断されることはありません。

業務の正常な運営を阻害することを目的としていたのか、労働基準法第39条第5項但書の事業の正常な運営を妨げる場合に該当するかどうか、がポイントになります。

このケースでは、労働組合員(従業員)は前もって業務に支障が生じないよう調整をして、労働組合による集会への参加の指示も強制ではなかったことから、事業の正常な運営を阻害する事情や目的は認められませんでした。

したがって、同盟罷業(ストライキ)ではなく、年次有給休暇が請求されたものとして、事業の正常な運営を妨げる事情が認められないことから、会社(高校)による時季変更権の行使は違法であると判断されました。

最終的に、従業員が請求した時季に年次有給休暇が成立していたとして、無断欠勤には該当しない、戒告処分(懲戒処分)は無効という結論になりました。

「有給休暇の時季変更権」に関して、次のような裁判例があります。
「弘前電報電話局事件(会社の配慮-違法)」
「横手統制電話中継所事件(会社の配慮-違法)」
「電電公社関東電気通信局事件(会社の配慮-適法)」
「高知郵便局事件(時季変更のタイミング)」
「此花電報電話局事件(当日の請求と時季変更)」
「時事通信社事件(長期休暇)」
「国鉄郡山工場事件(争議行為)」
「道立夕張南高校事件(一斉休暇闘争)」
「新潟鉄道郵便局事件(事業の正常な運営を妨げる場合)
「千葉中郵便局事件(欠員の発生)」
「中原郵便局事件(欠員の発生)