懲役6ヶ月or罰金30万円【小島撚糸事件】

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小島撚糸事件 事件の概要

会社は従業員に時間外労働や休日労働をさせていましたが、労働基準法第37条で定められている割増賃金の一部を支払っただけで、全額を支払っていませんでした。

この時間外労働と休日労働は、労働基準法第33条に基づいて、労働基準監督署の許可を受けて行われたものではなく、事後の許可も受けていませんでした。

また、労働基準法第36条によって、従業員の過半数代表者(過半数労働組合)と締結した協定(36協定)に基づいて行われたものでもありませんでした。

この行為が、労働基準法第37条に違反するとして、会社の代表取締役が起訴されました。

小島撚糸事件 判決の概要

労働基準法第37条には、第33条又は第36条により、会社が時間外労働や休日労働をさせた場合に、割増賃金の支払義務があることが規定されている。

第33条又は第36条によらない違法な時間外労働や休日労働をさせた場合の取扱いについては、労働基準法では明示されていない。

しかし、適法な時間外労働等に対して割増賃金の支払義務があるのであれば、違法な時間外労働等に対しては一層強い理由でその支払義務があることは当然である。

労働基準法第37条は、第33条又は第36条の条件を満たしているかどうかにかかわらず、時間外労働等に対して割増賃金の支払義務があることを定めた規定と考えられる。

そうすると、割増賃金の支払義務の履行を確保しようとする労働基準法第119条第1号の罰則は、時間外労働等が適法に行われたものか違法に行われたものかは関係なく適用される。

以上により、会社の代表取締役は有罪とし、労働基準法第119条第1号の罰則が適用される。

解説−懲役6ヶ月or罰金30万円

違法な時間外労働や休日労働をさせていた場合に、割増賃金の不払いを理由として、罰則を適用できるかどうか(有罪になるかどうか)、争われた裁判例です。民事ではなく刑事です。

労働基準法では、法定労働時間が定められていて、原則的には、1日8時間又は1週40時間を超えて勤務させることが禁止されています

法定休日も定められていて、原則的には、少なくとも1週間に1日又は4週間に4日の休日を与えることが義務付けられています。

そして、次の場合は例外的に、従業員に時間外労働や休日労働をさせることが可能になります。

  1. 労働基準法第33条に基づいて、災害等による臨時の必要があって、労働基準監督署の許可を受けた場合
  2. 労働基準法第36条に基づいて、従業員の過半数代表者(又は過半数労働組合)と36協定を締結して、労働基準監督署に届け出た場合

また、労働基準法第37条では、時間外労働や休日労働をさせた場合は、割増賃金を支払う義務があることが規定されています。

ところが、労働基準法第37条を詳しく見ると、「使用者が、第33条又は第36条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、・・・」となっています。

第33条又は第36条に基づいて時間外労働等をさせたことが、労働基準法違反が成立する要件になっていると解釈することも可能です。そう考えると、第33条又は第36条に基づかない時間外労働等に対する割増賃金の不払いについては、違法ではないということになります。

しかし、割増賃金とは、法定労働時間や法定休日の趣旨を維持して、過重な労働に対して企業に補償させることを目的とする制度です。

適法に時間外労働等をさせている場合に割増賃金の支払い義務があるにもかかわらず、違法に時間外労働等をさせている場合に割増賃金の支払い義務が免除されることはあり得ません。割増賃金の制度の目的に照らすと、より強力に支払い義務を課す必要性があるのは明らかです。

支払い義務を確実なものとするために、労働基準法上に罰則の規定が設けられています。割増賃金の不払いがあったときは、違法に時間外労働等をさせている場合であっても、第37条に違反とするものとして、第119条第1号の罰則を適用できることが最高裁の判決で示されました。

なお、労働基準法第119条第1号には、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金が定められています。

ところで、実際に、割増賃金の不払い、違法な時間外労働や休日労働が発覚したとしても、過労死など特別な事情がある場合は別ですが、通常は労働基準監督署から是正勧告が出されて、会社がそれに従って是正すれば起訴される(有罪=前科者になる)ことはありません。

この場合であれば、従業員の過半数代表者と36協定を締結して労働基準監督署に届け出て、適正に割増賃金を支払うよう指導されると思います。

このときに、是正期日までに従わなかったり、虚偽の報告書を提出したりすると、会社や代表者は起訴される可能性が高くなります。