深夜労働手当【ことぶき事件】

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ことぶき事件 事件の概要

美容室と理容室を経営している会社に総店長として勤務していた従業員が、会社を退職しました。

この従業員が退職する際に顧客カードを無断で持ち出したりしたため、会社は不正行為として損害賠償を請求しました。

この訴えに対して、元従業員が割増賃金(時間外勤務手当、休日勤務手当、深夜勤務手当)の支払いを求めて、反訴請求をしました。

なお、元従業員が労働基準法第41条第2号の管理監督者に該当することは、東京高等裁判所が判断したとおり認定し、最高裁判所では深夜勤務手当の支払い義務の有無が争点になりました。

ことぶき事件 判決の概要

労働基準法では、労働時間の長さに関する規制があり、第37条第1項では、会社が労働時間を延長した場合は、延長した労働時間に対して所定の割増賃金(時間外勤務手当)を支払わなければならないことが規定されている。

他方、第37条第4項では、会社が午後10時から午前5時までの間に労働させた場合は、その労働時間に対して所定の割増賃金(深夜勤務手当)を支払わなければならないことが規定されている。

この第4項は、労働が行われる時間帯に着目し、深夜労働を規制する点で、労働時間に関する他の規定とは趣旨や目的が異なるものと考えられる。

また、労働基準法第41条では、管理監督者や農業に従事する者等については、労働基準法の第4章、第6章、第6章の2の労働時間、休憩、休日に関する規定は適用しないことが定められている。

一方、第6章の年少者の深夜労働を禁止する第61条を見ると、第4項で、農業に従事する者等については、深夜労働が禁止されないことが別途規定されている。

この規定は、労働基準法第41条の「労働時間、休憩及び休日に関する規定」には、深夜労働に関する規定は含まないことを示すものである。

以上により、労働基準法第41条の管理監督者に該当する従業員にも、第37条第4項の規定は適用され、深夜勤務手当を請求することができる。

ただし、労働協約や就業規則によって、管理監督者に該当する従業員の賃金に一定額の深夜勤務手当を含むことが明確に定められている場合は、その範囲内の深夜勤務手当については支払う必要はない。

解説−深夜労働手当

管理監督者に対して、深夜勤務手当の支払い義務があるかどうか争われた裁判例です。

労働基準法第41条の管理監督者に該当する場合は、労働時間、休憩、休日に関する規定は適用しないことが定められています。

労働時間については、1日8時間又は1週40時間という規制がないということで、管理監督者がこの時間を超えて勤務したとしても、会社は時間外勤務手当を支払わなくても構いません。

休日については、1週間に1日又は4週間に4日という規制がなくなり、管理監督者がこの日に勤務したとしても、会社は休日勤務手当を支払わなくても構いません。

割増賃金としては、もう1つ深夜勤務手当が労働基準法で定められていますが、この支払い義務はどうなるのかということです。

労働基準法第41条では、「第4章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定」は適用しないと記載されています。深夜労働の記載がありませんので、管理監督者にも深夜労働に関する規定は適用されると考えられそうです。

また、労働基準法第41条では、管理監督者と並んで農業に従事する者等も適用が除外されることが規定されています。そして、労働基準法の第6章の第61条に、年少者の深夜労働を禁止する規定が設けられているのですが、その第4項で、農業に従事する者等には深夜労働を禁止しないことが規定されています。

第41条の「労働時間、休憩及び休日に関する規定」に深夜労働を含むのであれば、第6章の第61条第4項で、わざわざ深夜労働を禁止しないこと(適用しないこと)を規定する必要はありません。

更に、判決では、労働基準法第37条第4項は深夜という時間帯に着目したもので、労働時間の長さを規制する他の規定とは趣旨や目的が異なることを理由として、管理監督者にも深夜労働に関する規定が適用されることが示されました。

つまり、管理監督者であっても、深夜の時間帯に勤務したときは、深夜勤務手当を請求できることになります。つまり、会社は、管理監督者にも深夜勤務手当を支払う義務があります。

ただし、労働協約や就業規則によって、深夜勤務手当を賃金(手当)に含めて支払っていることが明確になっている場合は、その範囲内の深夜勤務手当については支払う義務がないことも示されました。

例えば、店長手当3万円のうち、2万円を深夜勤務手当として支払っていることを明確にしていれば、実際の深夜労働の時間に基づいて計算した深夜勤務手当の額が、2万円の範囲内に収まっている場合は支払う必要はありません。もちろん、2万円を超えたときは、差額を支払わないといけません。

また、その場合は、賃金に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項ですので、一定額で深夜勤務手当を支払うことについて、就業規則(労働協約)に規定した上で、個別に本人から同意を得ている必要があります。

普通の経営者であれば、「管理監督者は自分で勤務時間を(時間帯も)決められるし、時間外勤務手当と休日勤務手当を支払わなくても良いんだったら、同じような深夜勤務手当も支払わなくても良いだろう」と考えるのが自然と思います。

しかし、管理監督者が深夜労働をしたときは深夜勤務手当を支払う義務があるということは、判例でも学説でも支持されていることですので、労働基準法が改正されない限り、覆ることはありません。