退職時の年次有給休暇の取得|就業規則の規定例

退職時の年次有給休暇の取得

  • 従業員が退職する直前になって、「残っている有給休暇を全部消化する」と言ってきたのですが、認めないといけないのでしょうか?会社としては差し障りがありますので、今後はこのようなことを防ぐために、就業規則で何か制限できるようにしたいのですが...
  • 原則としては従業員が申し出たとおり、会社は年次有給休暇の取得を認めないといけません。また、就業規則では、直接、年次有給休暇の取得を制限する規定を設けることはできません。

退職時の年次有給休暇の時季変更権

労働基準法により、一定期間継続して勤務をした従業員に対して、会社は年次有給休暇を付与することが義務付けられています。そして、従業員が年次有給休暇を取得したときは、その日の勤務を免除して、会社は賃金を支払わないといけません。

また、年次有給休暇の請求については、労働基準法の第39条第5項で、「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」と規定されています。

簡単に言いますと、年次有給休暇は従業員が請求した時季に与えないといけないけれども、事業の正常な運営を妨げる場合は他の時季に変更できるということです。これを「年次有給休暇の時季変更権」と言って、就業規則にも、これに関連する記載があると思います。

しかし、退職に際しては、この時季変更権は行使することが難しいです。例えば、10月1日に20日分の年次有給休暇を付与して、前月から引き続いて10月中は全部の出勤日に年次有給休暇を充当して、10月末日付で退職すると申し出たとします。

「年次有給休暇の時季変更権」は、あくまでも取得日を他の日に変更できるというものであって、取得自体を取り消せるものではありません。退職日までの全て出勤日に年次有給休暇を充当したとすると、退職日以降は出勤日がありませんので、取得日を変更できる余地がありません。

したがって、会社は時季変更権を行使できませんので、従業員の申出どおり認めざるを得ないということになります。

取得可能日数を比例按分

退職時のまとまった年次有給休暇については、見過ごせないと考える経営者が多くて、例えば、10月1日に20日分の年次有給休暇を与えたとすると、10月中に取得できるのは、その12分の1に限定できないか、そのように就業規則に規定できないかと相談されることがあります。

年次有給休暇を取得できる日数を月毎に比例按分して制限(月毎に取得できる上限日数を設定)できないかということですが、それは法律的にできません。

10月1日に20日分の年次有給休暇を付与したとすると、文字通り、従業員には10月1日に20日分の年次有給休暇を取得する権利がまとめて与えられたことになります。従業員は10月1日以降に20日分の年次有給休暇を自由に取得できます。

就業規則の診断をしていると、退職時に年次有給休暇をまとめて取得することを禁止したり、退職時は月割りで比例按分したりする規定をまれに見掛けますが、どちらも違法ですので注意してください。

従業員の同意が必要

退職時に会社は時季変更権を行使できませんし、会社が一方的に年次有給休暇の取得を取り消すこともできません。一旦、従業員が申し出た内容を変更する場合は、従業員を説得して、本人の意思で変更してもらう必要があります。

従業員と話し合って、年次有給休暇の一部の申出を撤回してもらったり、退職日を前倒しして会社が年次有給休暇を買い取ることを提案したりして、従業員に応じてもらわないといけません。

なお、年次有給休暇の買取り金額は、合意により、いくらでも(1日分でも0.5日分でも5,000円でも)構いません。退職日の変更についても、従業員の同意が必要です。

ところで、既に転職先が決まっていて、当社を退職する前に転職先に入社する予定で、籍が重複している場合は、就業規則で定めている兼業の禁止(懲戒解雇の事由)に当たります。

実際に就業規則に基づいて懲戒解雇をすることは余り現実的ではありませんが、このような場合は、説得に応じてもらいやすいと思います。

このような事情がなく、会社(管理職)による説得にもかかわらず、従業員が応じない場合は、当初の申出のとおり、年次有給休暇の取得を認めないといけません。

また、引継ぎを十分にしてもらいたい場合は、従業員の同意を得て、退職日を後倒しすることも考えられます。

就業規則で退職時の引継ぎを義務付けている場合は、就業規則を見せて引継ぎを命じることができます。引継ぎを怠っている場合は、就業規則に基づいて譴責や出勤停止といった懲戒処分を行うことも考えられます。

ただし、法律的な体制が不十分な会社が退職時に無理強いをすると、サービス残業など他の問題が表面化する恐れがありますので慎重に行ってください。

年次有給休暇を取得できなかった反動

会社としては、「1ヶ月間全く勤務をしていないにもかかわらず、どうして辞めていく従業員に1ヶ月分の賃金を支払わないといけないのか?!」と憤る気持ちも分かります。

しかし、従業員としては、「これまで何年間も何十日分も使える休暇を無駄にして、使って来なかったんだから、最後ぐらい良いではないか?!」と思っているのではないでしょうか。

多くの場合、年次有給休暇を取得できなかったことに対する反動の表れようです。客観的に長い目で見ると、それで帳尻が合うようになっているのではないかと思います。

年次有給休暇の取得率が5割に満たない場合は、年次有給休暇を取得しやすい職場環境にすることを検討してはいかがでしょうか。そうすれば、退職時にまとめて年次有給休暇を消化しようとする従業員は減るはずです。

年次有給休暇が取りにくいようであれば、リフレッシュ休暇と名付けて、毎年3日〜5日程度の取得を義務付けたりする方法も考えられます。就業規則で規定して、労使協定を締結すれば、年次有給休暇を充当して消化することも可能です。

年次有給休暇について