年次有給休暇の買取り|就業規則の規定例

年次有給休暇の買取り

  • パートタイマー用の就業規則に、年次有給休暇を買い取ることを記載したいのですが、何か問題がありますか?
  • 年次有給休暇の買取りは、原則的には労働基準法に違反する行為ですので、就業規則に記載することはできません。パートタイマーであっても正社員であっても同じです。

年次有給休暇の買取り

年次有給休暇の買取りについては、買い取るタイミングが、時効で消滅する前か後かによって法律的な解釈が異なります。

また、消滅した年次有給休暇についても、時効によって消滅したのか、退職に伴って消滅したのか、によって異なってきます。

3つのタイミングに分けられますので、それぞれのケースごとに見てみましょう。

時効で消滅する前の年次有給休暇

労働基準法により、従業員が一定期間継続して勤務をしたときは、年次有給休暇を与えることが義務付けられています。就業規則には、年次有給休暇の付与日数や取得手続き等について記載していると思います。

年次有給休暇の買取りについて、例えば、平成28年10月1日に20日分の年次有給休暇を付与した場合で考えてみましょう。

労働基準法では、年次有給休暇の時効が2年と定められていますので、従業員は平成30年9月末日まで年次有給休暇を取得できることになっています。一方、付与した平成28年10月1日に会社が年次有給休暇を買い取ったとすると、従業員は年次有給休暇を取得できないようになります。

労働基準法上は年次有給休暇を取得する権利があるにもかかわらず、会社が買い取ることによってその権利を消滅させることになります。

休暇を取られるより買い取った方が都合が良いと考える会社があります。また、取得する予定がない年次有給休暇は買い取ってもらえた方が嬉しいと考える従業員もいます。このように、双方が労働基準法に反する取扱いを望んでいる場合はどうなるのでしょうか。

年次有給休暇は一旦横に置いて、例えば、「残業を行っても残業手当を支払わないこと」にして、会社と従業員の間で合意したとしても、通用しません。無効です。もし、このような合意が有効とすると、労働基準法自体が無意味なものになってしまいます。

労働基準法は労働条件の最低基準を定めた強行法規ですので、当事者間で法律の規定に反する合意をしたとしても、法律の規定が強行して適用されます。したがって、年次有給休暇の買取りは違法になりますので、就業規則に記載することはできません。

もし、就業規則に年次有給休暇を買い取ることを記載して、労働基準監督署に提出して見付けられると、就業規則を修正するよう指導されます。見付けられないでそのまま受理されることもありますが、その就業規則の規定は違法、無効であることには変わりません。

時効で消滅した後の年次有給休暇

では、平成28年10月1日に20日分の年次有給休暇を付与して、平成30年9月末日までに取得しなかった年次有給休暇(権利が消滅した年次有給休暇)を買い取ることは違法になるのでしょうか。

平成30年9月末日までは労働基準法により取得する権利が保障されていますが、これ以降は労働基準法で保障している範囲外のことですので、自由に処理をしても構いません。年次有給休暇を買い取ったとしても直ちに違法にはなりません。

しかし、時効によって消滅する年次有給休暇を買い取ることにすると、年次有給休暇の取得の抑制に繋がりますので、この場合は、法律の趣旨に反する行為として望ましくないと考えられています。

就業規則に時効で消滅する年次有給休暇を買い取ることを記載していると、労働基準監督署から指摘を受ける恐れがあります。

退職に伴って消滅する年次有給休暇

消滅する年次有給休暇でも、退職に伴って消滅する年次有給休暇は、時効によって消滅する年次有給休暇とは位置付けが異なります。

退職日以降の日については、年次有給休暇を取得することができません。つまり、労働基準法による保障の範囲外ですので、退職に伴って無効になる年次有給休暇を買い取ったとしても、労働基準法違反にはなりません。

また、退職するときは、普通はできるだけたくさん年次有給休暇を取得しようとしますので、買い取ることにしても年次有給休暇の取得の抑制には繋がりません。したがって、この場合は例外的に、買取りは可能と考えられています。

ただし、買取りが義務付けられる訳ではありませんので、買い取るかどうかは会社の判断によります。

なお、就業規則に退職に伴って無効になる年次有給休暇を買い取ることを規定していると、就業規則に基づいて買い取ることが義務付けられてしまいます。

基本的には買い取らないで、その都度、退職理由や解雇理由、引継ぎの状況等に応じて、場合によっては買い取ることがあるといった対応の仕方が良いでしょう。就業規則に買取りに関する記載をしなければ、そのような対応が可能になります。

年次有給休暇について