年次有給休暇の買取り|就業規則の規定例
年次有給休暇の買取り
- 就業規則に、年次有給休暇を買い取ることを記載しても良いでしょうか?
- 年次有給休暇の買取りは、原則的には、労働基準法に違反する行為ですので、就業規則に記載することはできません。
年次有給休暇の買取り
年次有給休暇とは、労働日の勤務を免除して、賃金を支払うという制度です。従業員の心身の疲労を回復して、ゆとりのある生活を実現するために、労働基準法に設けられました。
年次有給休暇を買い取っても、従業員の心身の疲労の回復には繋がりませんので、労働基準法では想定されていません。
仮に、年次有給休暇を買い取るとすると、次の3つのタイミングが考えられます。
- 有効期間中の年次有給休暇の買取り
- 時効によって消滅する年次有給休暇の買取り
- 退職によって消滅する年次有給休暇の買取り
それぞれのタイミングで、法律的な解釈が異なります。
有効期間中の年次有給休暇の買取り
例えば、2024年10月1日に20日の年次有給休暇を付与した場合で考えてみましょう。
労働基準法では、年次有給休暇の時効は2年と定められていますので、従業員は2026年9月末日まで年次有給休暇を取得できます。
仮に、2024年10月1日に付与した20日の年次有給休暇を、会社が買い取ったとすると、年次有給休暇を取得する権利が消滅します。
労働基準法上は、年次有給休暇を取得する権利があるにもかかわらず、会社が買い取ることによって、従業員は年次有給休暇を取得できないようになります。
そのような行為は認められませんので、有効期間中の年次有給休暇の買取りは、労働基準法違反となります。
もし、買い取ったとしても、権利を消滅することは認められませんので、従業員が請求すれば、年次有給休暇を取得できます。会社が請求を拒否すると、労働基準法違反になります。
20日の全部を買い取ることは極端ですが、例えば、「毎年5日以上余っているので、5日だったら、買い取ってもらった方が嬉しい」と考える従業員がいます。会社もそれに同意した場合はどうなるのでしょうか。
ところで、その前に、従業員が時間外労働をしたときは、割増賃金を支払うことが労働基準法で義務付けられています。会社と従業員が、「時間外労働をしたときに、割増賃金を支払わないこと」について、合意したとしても認められません。
もし、このような合意が有効とすると、労働基準法が無意味なものになってしまいます。労働基準法は労働条件の最低基準を定めた強行法規ですので、当事者間で法律の規定に反する合意をしたとしても、法律上の規定が強行して適用されます。
有効期間中の年次有給休暇の買取りは、労働基準法に違反しますので、労使間で5日の年次有給休暇の買取りに合意したとしても認められません。労働基準法に違反する内容を、就業規則に記載することはできません。
就業規則に年次有給休暇を買い取ることを記載して、労働基準監督署に提出すると、就業規則を修正するよう指導されます。内容を確認しないで、そのまま受理されることもありますが、就業規則のその部分は違法・無効であることは同じです。
時効によって消滅する年次有給休暇の買取り
同様に、2024年10月1日に20日の年次有給休暇を付与した場合で考えてみましょう。
労働基準法では、年次有給休暇の時効は2年と定められていますので、従業員は2026年9月末日まで年次有給休暇を取得できます。
未消化で2026年10月1日に権利が消滅する年次有給休暇を買い取ることは違法になるのでしょうか。
労働基準法によって、2026年9月末日まで、年次有給休暇を取得する権利が保障されています。これ以降は労働基準法で保障している範囲外のことですので、原則的には、労使間の合意によって自由に処理をすることができます。
したがって、年次有給休暇を買い取ったとしても、違法にはなりません。しかし、時効によって消滅する年次有給休暇を買い取ることにすると、年次有給休暇の取得を抑制することに繋がりますので、法律の趣旨に反する行為として望ましくないと考えられています。
就業規則に時効で消滅する年次有給休暇を買い取ることを記載していると、労働基準監督署から指摘を受ける可能性があります。
退職によって消滅する年次有給休暇の買取り
権利が消滅する年次有給休暇でも、退職によって消滅する年次有給休暇と、時効によって消滅する年次有給休暇は位置付けが異なります。
退職日以降は労働日がありませんので、年次有給休暇を取得できません。これも労働基準法による保障の範囲外ですので、退職によって消滅する年次有給休暇を買い取ったとしても、労働基準法違反には当たりません。
また、従業員が退職するときは、普通は残っている年次有給休暇を取得しようとしますので、会社が買い取ることにしても、年次有給休暇の取得の抑制には繋がりません。したがって、この場合は、特に支障なく、労使間の個別の合意に基づいて、買取りは可能と考えられます。
ただし、就業規則に、退職に伴って無効になる年次有給休暇を買い取ることを規定していると、会社は就業規則に基づいて、買い取ることが義務付けられます。
就業規則には記載しないで、その都度、引継ぎの状況や退職理由等に応じて、会社が必要と判断した場合に限定して、個別に買取りを提案する方法が良いと思います。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。
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