有給休暇の買取は違法?認められる3つの例外と就業規則への記載可否

有給休暇の買取は原則違法|就業規則への記載可否

  • 就業規則に、年次有給休暇を買い取ることを記載しても良いですか?
  • 年次有給休暇の買取りは、原則的には、労働基準法に違反する行為ですので、就業規則に記載することはできません。例外的に、買い取っても違法にならない場面がありますが、就業規則には記載しない方が良いです。

有給休暇の買取りが原則違法とされる理由

年次有給休暇とは、労働日の勤務を免除して、賃金を支払うという制度です。

従業員の心身の疲労を回復して、ゆとりのある生活を実現するために、労働基準法に設けられました。年次有給休暇を買い取っても、従業員の心身の疲労の回復には繋がりませんので、労働基準法では想定されていません。

行政通達(昭和30年11月30日基収第4718号)でも、年次有給休暇の買上げの予約をして、請求できる日数を減らしたり、請求された日数を与えなかったりすることは、労働基準法第39条に違反すると示されています。

なお、年次有給休暇を与えなかった場合は、6ヶ月以下の拘禁刑(旧懲役・禁錮)又は30万円以下の罰金の対象になる可能性があります。

有給休暇の買取りが認められるケース

年次有給休暇を買い取るとすると、法律的に次の4つの場面に区分して考えることができます。それぞれの場面で、法律的な解釈が異なります。

買取りの場面買取りの可否就業規則への記載
有効期間中の法定日数の年次有給休暇違法(認められない)記載できない(無効)
法定日数を超えて付与した年次有給休暇違法にならない法定日数と区別して記載することは可能
時効によって消滅する年次有給休暇違法にならない(ただし望ましくない)記載しない方が良い
退職によって消滅する年次有給休暇違法にならない記載しないで、個別に対応する方が良い

有効期間中の年次有給休暇の買取り(違法)

例えば、2025年10月1日に20日の年次有給休暇を付与した場合で考えてみましょう。

労働基準法では、年次有給休暇の時効は2年と定められていますので、従業員は2027年9月末日まで年次有給休暇を取得できます。仮に、2025年10月1日に付与した20日の年次有給休暇を、会社が買い取ったとすると、年次有給休暇を取得する権利が消滅します。

労働基準法上は、年次有給休暇を取得する権利があるにもかかわらず、会社が買い取ることによって、従業員は年次有給休暇を取得できないようになります。そのような行為は認められませんので、有効期間中の年次有給休暇の買取りは、違法な取扱いとなります。

もし、買い取ったとしても、権利を消滅することは認められませんので、従業員が請求すれば、年次有給休暇を取得できます。会社が請求を拒否すると、労働基準法違反になります。

また、就業規則に年次有給休暇を買い取ることを記載して、労働基準監督署に提出すると、就業規則を修正するよう指導される可能性があります。

年5日の年次有給休暇だけを買い取ることはできるか

20日の全部を買い取ることは極端ですが、年5日の年次有給休暇の取得義務が課されていますので、5日分だけ買い取ることはできるのでしょうか。

有効期間中の年次有給休暇の買取りは、日数に関係なく、権利を消滅させること自体が労働基準法に違反しますので、労使間で5日の年次有給休暇の買取りに合意したとしても認められません。

年5日の取得義務は、従業員が実際に休暇を取得することによって果たすものですので、買取りによって、取得義務を果たしたことにはなりません。年5日の取得義務は、年次有給休暇の年5日の取得義務を参照してください。

法定日数を超えて付与した年次有給休暇の買取り(違法にならない)

会社が、法定の日数を超えて年次有給休暇を付与している場合は、その超えている部分については、労働基準法の制限を受けませんので、買い取っても違法にはなりません。例えば、法定の付与日数が12日の従業員に対して、会社が独自に15日付与している場合は、法定日数を超える3日分は、買取りが可能です。

この場合は、就業規則で、法定日数の年次有給休暇と法定日数を超える年次有給休暇を区別して規定しておく必要があります。区別が曖昧になっていると、法定日数を超える部分であっても、買取りが制限される可能性があります。

時効によって消滅する年次有給休暇の買取り

同様に、2025年10月1日に20日の年次有給休暇を付与した場合で考えてみましょう。年次有給休暇の時効は付与日から2年間ですので、従業員は2027年9月末日まで取得できます。

未消化で2027年10月1日に権利が消滅する年次有給休暇を買い取ることは違法になるのでしょうか。労働基準法によって、2027年9月末日まで、年次有給休暇を取得する権利が保障されています。これ以降は労働基準法で保障している範囲外のことですので、原則的には、労使間の合意によって自由に処理をすることができます。

したがって、年次有給休暇を買い取ったとしても、違法にはなりません。しかし、時効によって消滅する年次有給休暇を買い取ることにすると、年次有給休暇の取得を抑制することに繋がりますので、法律の趣旨に反する行為として望ましくないと考えられています。

特に、時効で消滅する年次有給休暇を買い取ることを、就業規則に記載していると、労働基準監督署から指摘・指導される可能性があります。

退職によって消滅する年次有給休暇の買取り

権利が消滅する年次有給休暇でも、退職によって消滅する年次有給休暇は、時効によって消滅する年次有給休暇とは位置付けが異なります。

退職日以降は労働日がありませんので、年次有給休暇を取得できません。これも労働基準法による保障の範囲外ですので、退職によって消滅する年次有給休暇を買い取ったとしても、違法と指摘されることはありません。

また、従業員が退職するときは、普通は残っている年次有給休暇を取得しようとしますので、会社が買い取ることにしても、年次有給休暇の取得の抑制には繋がりません。したがって、この場合は、特に支障なく、労使間の個別の合意に基づいて、買取りは可能と考えられます。

しかし、就業規則に、退職に伴って消滅する年次有給休暇を買い取ることを規定していると、会社は就業規則に基づいて、買い取ることが義務付けられます。就業規則には記載しないで、その都度、引継ぎの状況や退職理由等に応じて、会社が必要と判断した場合に限定して、個別に買取りを提案する方法が良いと思います。

有給休暇の買取り金額の決め方と計算例

特別な事情がない場合に、退職する従業員から会社に、「未消化の年次有給休暇を買い取って欲しい」と申し出たとしても、会社は拒否できます。年次有給休暇を買い取るかどうか、1日当たりの買取り金額をいくらにするかは、労使間の個別の合意によります。

買取り金額に法律上の決まりはありませんが、年次有給休暇を取得したときの賃金(通常の賃金、平均賃金、標準報酬日額)を基準にして交渉するケースが多いです。例えば、月給30万円で、月平均の所定労働日数が21日の場合は、次のようになります。

計算方法計算例1日当たりの金額
通常の賃金30万円÷21日約14,286円
平均賃金直近3ヶ月の賃金総額90万円÷3ヶ月の暦日数92日約9,783円

賃金の計算方法の詳細は、年次有給休暇の賃金の計算方法を参照してください。

会社から買取りを提案する場合の金額の目安

例えば、希望退職を募集したり、退職勧奨を行ったりするときに、条件の1つとして、会社から年次有給休暇の買い取りを提示するケースがあります。その場合は、退職に応じてもらうために、通常の賃金に近い額で買い取るケースが多いです。

また、従業員がまとめて年次有給休暇を請求したけれども、引継ぎが不十分で、年次有給休暇を取り消して欲しいと考える場合に、会社から年次有給休暇の買取りを働き掛けることがあります。その場合は、双方が譲歩して通常の賃金の半額程度が目安になると思います。

なお、従業員は、会社から提示された買取り額で応じる義務はありません。個別の交渉によります。

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社会保険労務士 木下貴雄

執筆者:社会保険労務士 木下貴雄【 登録番号 第27020179号 】
就業規則を専門とする社会保険労務士です。メールを用いた関連サービスは20年以上の実績があり、全国の中小零細企業を対象に、これまで900社以上の就業規則の作成・変更に携わってきました。