年次有給休暇の時季変更権|就業規則の規定例
年次有給休暇の時季変更権
- 会社の就業規則に、従業員が指定した年次有給休暇の取得日を変更することがあると記載されていますが、どのような場合に変更できるのでしょうか?
- その日に年次有給休暇を取得すると、事業の正常な運営を妨げる場合です。特別な事情がある場合に限られますので、日常的に忙しい場合は認められません。
年次有給休暇の時季変更権
労働基準法(第39条第1項・第2項)によって、従業員の勤続年数に応じて、会社は次の日数の年次有給休暇を付与することが義務付けられています。
勤続年数 | 0.5年 | 1.5年 | 2.5年 | 3.5年 | 4.5年 | 5.5年 | 6.5年以上 |
付与日数 | 10日 | 11日 | 12日 | 14日 | 16日 | 18日 | 20日 |
労働基準法で定められている最低基準で、従業員ごとの入社日が基準になります。就業規則でも、このように定めている会社が多いです。
また、会社によっては、従業員に共通する基準日を設定して、例えば、毎年4月1日に全員一斉に付与する方法もあります。
この方法は管理が楽ですが、労働基準法の条件をクリアしないといけませんので、上の表の勤続年数を前倒しして付与する必要があります。
そして、従業員が年次有給休暇の取得を申し出たときは、会社は従業員が指定した日に与えないといけません。労働基準法(第39条第5項)によって、「使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。」と規定されています。
様々な就業規則を見ていると、会社の承認を条件としているものがありますが、年次有給休暇の取得を承認制(会社の判断で承認しないこともあり得る)にすることはできません。
ただし、労働基準法(第39条第5項)には続きがあって、「請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。」と規定されています。
この規定にはポイントが2つあります。1つは「他の時季にこれを与えることができる」と定められているとおり、他の日に変更することが認められています。年次有給休暇の取得を拒否するものではありません。
もう1つが、「事業の正常な運営を妨げる場合」です。従業員が指定した日に年次有給休暇を取得すると、「事業の正常な運営を妨げる場合」は、会社は年次有給休暇の取得日を変更できます。この権利のことを「時季変更権」と言います。
そして、「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当するかどうかは、会社の規模や業種、その従業員の業務内容、業務の繁閑、年次有給休暇の予定日数、代替要員の確保の難易等の事情を総合的に考慮して判断されます。
- その日に、多くの従業員が休むことになった(風邪の流行や他の従業員の休暇が重なった等)
- その日に、その従業員しかできない重要な業務を予定していた
- その日に、出張や研修等の特別な業務を予定していた
例えば、このような事情があって、代わりの者を補充することが不可能な場合に該当することが考えられます。日常的な事情ではなく、特別な事情が必要です。
日常的に人手不足の職場で、年次有給休暇を取得すると、事業の正常な運営を妨げるとしても、そのような場合は認められません。これが認められると、普段から年次有給休暇を取得できないことになってしまいます。
なお、事業の正常な運営を妨げるほどではないときに、従業員に対して、「その日は忙しいから他の日に変更できないか?」と(強制力が伴わない)相談や要望をすることは可能です。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。
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