遅刻・早退の端数処理|就業規則の規定例

遅刻・早退の端数処理

  • 賃金の計算を簡略化するために、従業員が30分未満の遅刻をしたときは、30分に切り上げて賃金を減額しています。就業規則(賃金規程)に、そのように記載してもらえますか?
  • 労働基準法で定められている「賃金の全額払の原則」に違反する取扱いですので、就業規則(賃金規程)に記載することはできません。

遅刻・早退の端数処理

例えば、従業員が10分の遅刻をしたときに、10分ぶんの賃金を減額することは可能です。ノーワーク・ノーペイの原則により、勤務しなかった時間に対して、会社は賃金を支払う義務はありません。

しかし、計算が面倒という理由で、従業員が10分の遅刻をしたときに、30分の遅刻とみなして、賃金を減額していると、切り上げた20分については、会社は賃金を支払っていないことになります。

労働基準法(第24条)によって、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」として、賃金の全額を支払うことを義務付けています。切り上げる取扱いは、20分ぶんの賃金が未払いですので、この規定に違反します。

また、同じ会社で、従業員が残業をしたときに、30分未満の残業時間を切り捨てて、残業手当を支払っているケースがあります。遅刻の時間は切り上げて、残業の時間は切り捨てるのは、公平ではありません。従業員にとっては、ただ働きですので、不満が生じていると思います。

そして、就業規則には、労働基準法に違反する内容を記載することができません。就業規則を労働基準監督署に届け出たり、労働基準監督署の調査があって、労働基準法に違反する部分が見付かったときは、労働基準監督署から修正するよう指導されます。

もし、見付からなかったとしても、労働基準法が優先されますので、違反する内容を記載した就業規則のその部分は無効になります。

以上のとおり、遅刻した時間の端数を切り上げて、賃金を減額することは許されません。従業員が遅刻や早退をしたときは、1分単位で計算する必要があります。パソコンがない時代からこのように決められています。その時代と比べれば、1分単位の計算は簡単にできます。

また、賃金の計算の煩わしさに加えて、遅刻に対する指導や注意、ペナルティの意味を込めて、切り上げて減額しているケースもあります。

遅刻・早退・欠勤が繰り返されると、業務に支障が生じたり、職場の秩序が乱れたりしますので、本人に対して指導や注意をするべきです。しかし、それは、賃金の計算(減額)とは別に、切り離して考える必要があります。

就業規則を確認してください。理由のない遅刻、早退、欠勤を繰り返した場合に、始末書を提出させること(譴責や戒告)を規定していれば、その規定に基づいて、始末書を提出させられます。

通常はその前に、次に遅刻、早退、欠勤を繰り返したときは懲戒処分を行うことを警告しておきます。懲戒処分は、本人にとっては、賃金が減額されるより、深刻に受け止めることが多いので、効果的と思います。


執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。

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