家族手当と通勤手当の減額・控除|就業規則の規定例
家族手当と通勤手当の減額・控除
- 従業員が欠勤や遅刻をしたときは、家族手当を減額しても良いのでしょうか?
- 就業規則(賃金規程)に家族手当を減額することを規定していれば可能ですが、減額しない取扱いが望ましいです。
家族手当と通勤手当の減額・控除
労働基準法上の考え方
労働基準法に基づいて考えると、労働時間に応じて賃金を支払うことが義務付けられています。反対から見ると、欠勤や遅刻・早退をした時間に対して、賃金を支払う義務はありません。「ノーワーク・ノーペイの原則」と言われる考え方です。
家族手当も労働基準法上の賃金に該当しますので、従業員が欠勤や遅刻・早退をしたときは、会社はその不就業の時間に対応する家族手当を支払う義務はありません。つまり、家族手当を減額・控除する取扱いは、違法ではありません。
この取扱いについては、通勤手当についても同じです。
就業規則(賃金規程)の規定
また、就業規則(賃金規程)に、従業員が欠勤や遅刻・早退をした場合の賃金の取扱いについて、どのように規定しているのかが重要になります。
労働基準法は労働条件の最低基準を定めた法律ですので、就業規則は労働基準法の労働条件と同じか上回る内容とする必要があります。
就業規則(賃金規程)に、減額する手当として、例えば、基本給や職務手当を記載しているけれども、その中に家族手当の記載がない場合は、家族手当を減額することはできません。一方、減額する手当として、家族手当を記載していれば、家族手当を減額できます。
就業規則はその会社のルール、会社と従業員の契約内容ですので、就業規則に基づいて処理をする必要があります。
ただし、就業規則の内容より、従業員にとって有利に取り扱うことは可能です。就業規則(賃金規程)に、家族手当を減額することを記載している場合に、実際に家族手当を減額しない取扱いは可能です。
反対に、就業規則の内容より、従業員にとって不利に取り扱うことはできません。就業規則(賃金規程)に、家族手当を減額することを記載していない場合に、実際に減額する取扱いは認められません。
従業員が欠勤や遅刻・早退をした場合に、減額の対象となる手当の種類(家族手当を減額するかどうか)を就業規則(賃金規程)に記載していなければ、これまでの慣行が優先されます。トラブルの原因になりますので、明確に規定しておくことが望ましいです。
以上の考え方については、通勤手当についても同じです。
割増賃金との兼ね合い
従業員が欠勤や遅刻・早退をしたときに、家族手当や通勤手当を減額することは違法ではありませんので、減額するかどうかは会社の考え方によります。しかし、家族手当や通勤手当は、減額しない取扱いが公平で望ましいと思います。
従業員が時間外労働や休日労働をしたときは、割増賃金を支払うことが義務付けられています。この割増賃金の基礎となる賃金から、家族手当や通勤手当を除外することが認められています。
家族手当や通勤手当は、労働の対価というより、生活費を補助するという性質が強いため、時間外労働や休日労働をしたからといって、割増しで支給することは馴染まないという考えから、除外することが認められています。
時間外労働や休日労働をしても、欠勤や遅刻・早退をしても、必要な生活費は同じです。割増賃金の基礎となる賃金から家族手当や通勤手当を除外する一方で、欠勤や遅刻・早退をした場合に、家族手当や通勤手当を減額する取扱いは合理的ではないと思います。
また、従業員の立場で考えると、「家族手当は、時間外労働や休日労働をしたときは増額されないのに、欠勤や遅刻・早退をしたときは減額されるのか?」という不満を持たれると思います。
- 割増賃金の基礎となる賃金に含める手当は、欠勤・遅刻・早退をしたときは、減額・控除する
- 割増賃金の基礎となる賃金から除外する手当は、欠勤・遅刻・早退をしても、減額・控除しない
このように取扱いを一致する方法が合理的と思います。当事務所で就業規則(賃金規程)を作成するときは、「割増賃金の基礎となる賃金=基準内賃金」という区分を設定しています。
なお、通勤手当は、通勤に要する費用を補助するために支給する手当です。遅刻・早退をした場合に減額をする取扱いは不合理で、従業員にとっては理解されにくいです。
ただし、自動車通勤をしている場合に、欠勤をしたり、休暇を取得したりして、出勤しない日があった場合は、その日数分の通勤費用(ガソリン代)は掛かりませんので、その日数分の通勤手当を日割計算で減額することは、合理性があると思います。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。
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