付加金の支払【新井工務店事件】

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新井工務店事件 事件の概要

会社が従業員を即時に解雇したのですが、労働基準法で義務付けられている解雇予告手当の支払いを怠っていました。

そのため、従業員が解雇予告手当の支払い、及び、それと同額の付加金の支払いを求めて、会社を提訴しました。

その後、第一審の判決が出る前に、会社は従業員に解雇予告手当を支払いました。そのような場合に、付加金を請求できるのかどうかが争点になりました。

新井工務店事件 判決の概要

労働基準法 第114条の付加金の支払義務は、会社が解雇予告手当等を支払わない場合に、当然に発生するものではなく、従業員が請求して、裁判所が支払を命じることによって発生するものである。

会社が労働基準法 第20条に違反しても、裁判所が命令する前に、未払金の支払を完了して、その違反の状況が消滅したときは、裁判所は付加金の支払を命じることができない。したがって、付加金の請求は認められない。

解説−付加金の支払

会社が解雇予告手当の支払いを怠っていて、従業員が解雇予告手当及びそれと同額の付加金の支払いを求めて提訴しました。裁判所の支払い命令が出る前に、会社が解雇予告手当を支払った場合に、付加金を請求できるのかどうか争われたケースです。

付加金の支払いについては、労働基準法 第114条によって、次のように規定されています。

「裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第9項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から5年以内にしなければならない。」

労働基準法によって、それぞれの規定に基づいて、会社は各手当(賃金)を支払うことが義務付けられています。この裁判では、解雇予告手当の未払いが問題になっていました。労働基準法 第20条によって、次のように規定されています。

「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。・・・」

会社が従業員を解雇する場合は、原則的には、30日以上前に予告することが義務付けられています。また、そのような予告期間を設けないで、即時に解雇する場合は、その代わりに、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払うことが義務付けられています。

そして、解雇予告手当等の支払い義務があるにもかかわらず、これらを支払わなかった会社に対して、裁判所は、その金額と同じ額の付加金の支払いを命じることが規定されています。悪質な会社と判断されると、制裁として2倍の金額を支払わされます。

ただし、付加金の支払を命じることができるのは“裁判所”に限定されていますので、従業員が“労働基準監督署”に各規定に関する違反の申告をしても、付加金を請求することはできません。労働基準監督署に、付加金の支払いを命令する権限はありません。裁判所に提訴する必要があります。

そして、この事件では、会社が提訴されて、第一審の判決が出る前(口頭弁論が終結する前)に、解雇予告手当を支払いました。

解雇予告手当の未払いという違反の状態が解消されると、労働基準法 第114条の前提条件を満たしませんので、裁判所は付加金の支払いを命じることが不可能になります。したがって、会社に付加金の支払い義務はないという結論になりました。