均等待遇【古河鉱業事件】

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古河鉱業事件 事件の概要

工場において、経営を合理化する必要があり、間接部門の業務を廃止又は縮小して、10人の余剰人員を削減することになりました。なお、対象となった間接部門は女性従業員で占められていました。

会社は労働組合と協議・合意した上で、間接部門の業務に従事する者を対象として、1ヶ月分の予告手当を支給することを条件に、希望退職を募集したところ、9人が応じて退職願を提出しました。

間接部門の女性従業員を配置転換することが困難なため、会社は就業規則の解雇事由の「やむを得ない事業上の都合によるとき」の規定を根拠にして、余剰人員の残りの1人を整理解雇することを決定しました。

会社は整理解雇の対象者として、次の理由によって、間接部門に在籍していた既婚の女性従業員を選定しました。

  1. 従来から、女性従業員は結婚すると、ほとんどが退職して、退職しなくても長く在籍する者はいなかった。
  2. 既婚女性は、通常は夫と共稼ぎをしていて、退職しても生活には困らない。

これに対して、解雇された女性従業員が、性による差別な待遇に該当し、無効であると主張して、雇用契約上の地位が存在することの確認等を求めて、会社を提訴しました。

三菱樹脂事件 古河鉱業事件

会社が経営改善のため、工場において人員整理を行う必要に迫られていたとする原審の判断は、是認することができる。

また、女性従業員に対する整理解雇が、経営合理化を口実として、既婚の女性従業員を排除するために行ったものではないとした原審の判断は、是認することができる。

東京高裁(原審)

工場の従業員1人当りの付加価値は他社より低く、逆に労働分配率は他社より高く、このような生産性の低さは、間接部門の比率が高いことが主な原因である。このような実態を是正して、生産性の向上を図るためには、単に高給の従業員を解雇して実現できることではなく、生産性が低い原因となっている間接部門の業務の簡素化と人員の整理を行う必要があった。

直接部門である工場の機械製作の作業は、油を使用して身体が汚れやすく、相当な重量がある機械を扱う肉体労働で、女性従業員には適していない。合理化によって、間接部門において女性従業員の余剰が出たからといって、直ちに直接部門に配置転換をすることは不可能である。

また、人員整理の対象となった女性従業員が従事していた業務は廃止されたり、簡素化されて、他の部署の業務と統合されたりして、結果的にその業務がなくなったことから、余剰であったことが認められる。

以上により、本件解雇は経営合理化のため、間接部門の従業員を整理する必要に迫られ、諸般の事情を考慮した結果、女性従業員を解雇することになった事実が認められる。そうすると、本件解雇は、経営合理化を口実にして、既婚の女性従業員を排除するために行ったものとは言えないし、憲法及び労働基準法に違反するものではない。

更に、本件解雇が、会社の労働政策に反対した女性従業員を職場から排除する目的で行ったとする事実は認められないので、この事実の存在を前提とする解雇権の濫用にも当たらない。

労働協約と就業規則の解雇基準がそれぞれ異なる場合は、労働協約の定めが優先する。したがって、労働協約と就業規則の解雇条項に異なる基準を定めている場合は、就業規則に基づいて解雇できたとしても、労働協約に基づいて解雇できなければ、従業員を解雇することは許されない。

会社は就業規則に基づいて女性従業員を解雇したが、労働協約に基づいて解雇できない場合は、女性従業員に対する解雇は無効となる。そこで、労働協約に基づいて、本件解雇が可能かどうか検討する。

労働協約は、経営上の事情による解雇事由として、「天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となったとき」の他に、「その他前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」を挙げている。後者の規定は、経営上、人員整理の必要が生じた場合などを予想して、解雇の事由に弾力性を持たせるために設けたものと考えられる。

この人員整理は、天災事変に匹敵する事情によって、事業の継続が不可能となった場合に限らず、経営を合理化して生産性を向上して、体制を整えるために行う場合も含むものと考えられる。

したがって、このような人員整理の必要が生じた場合は、従業員を解雇することは許されるべきである。本件解雇も、人員整理のために行われたものである。

解説−均等待遇

経営を合理化する必要があって、間接部門の余剰人員を削減することになりました。整理解雇の対象となった女性従業員が、姓による差別的な待遇であると主張して、裁判になったケースです。

整理解雇の必要性が認められたとしても、対象者の選定基準が不合理であると判断されると、解雇は無効になります。

労働基準法(第3条)で、「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。」と規定されています。

しかし、この均等待遇については、性別を理由とする差別的な取扱いは含まれていません。

また、労働基準法(第4条)で、「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。」と規定されていています。

賃金については、性別を理由とする差別的な取扱いが禁止されています。反対に考えると、あくまでも労働基準法上は、賃金以外の労働条件については、差別的な取扱いをしても違法にはならないということです。ただし、労働基準法の趣旨や精神に反すると主張することは可能です。

そして、裁判所は、既婚の女性従業員を解雇しても、通常は生活に困らないので、独身の女性従業員を解雇する場合より不利益の程度が小さいから、選定基準は合理的であると認めました。(選定基準について、特に否定しませんでした。)

しかし、現在は、男女雇用機会均等法(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律)によって、性別を理由とする差別が全面的に禁止されています。

それで、この裁判は、昭和41年(1966年)に行った解雇が問題になったものですが、男女雇用機会均等法が施行されたのが昭和47年(1972年)ですので、それより前の話です。

当時は、解雇は有効と認められましたが、現在は、このような考え方(選定基準)は認められません。男女雇用機会均等法の指針(ガイドライン)によって、既婚の女性従業員については、次のような取扱いをすることが明確に禁止されています。

ただし、様々な事情を総合的に考慮して、対象者がたまたま既婚の女性従業員であったということであれば、問題はありません。

会社が整理解雇をするときに、解雇されることによって受ける不利益の程度(ダメージ)が小さい者を対象者とすることは、合理的な選定基準の1つと認められます。

それぞれの会社のその都度の状況によりますが、例えば、再就職の難易を考慮すると、若い従業員を対象者とすることに合理性があると考えられます。

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