均等待遇【三菱樹脂事件】

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三菱樹脂事件 事件の概要

大学卒業者の採用試験に合格して、当初の3ヶ月は試用期間として会社に採用されました。

しかし、試用期間中に、採用試験の際に、学生運動に参加していたにもかかわらず虚偽の回答をしていたことが発覚したため、会社は本採用を拒否して解雇しました。

これに対して、従業員が、本採用の拒否は思想、信条の自由を侵害するものとして、本採用の拒否(解雇)の無効を求めて提起しました。

三菱樹脂事件 判決の概要

思想、信条の自由を規定している憲法第14条や第19条は、国や公共団体と個人との関係を規律するもので、会社と個人の関係を規律するものではない。

その一方で、憲法第22条や第29条において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由を保障している。

それゆえ、会社は、経済活動の一環として契約の自由があり、どの者を雇入れるか、どのような条件で雇入れるかについて、法律その他による特別な制限がない限り、原則として自由に決定できる。

そのため、会社が、特定の思想、信条を理由として雇入れを拒んでも、それを当然に違法とすることはできない。また、会社が、従業員の採否決定にあたって、その者の思想、信条を調査し、その者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、違法とは言えない。

雇用を予定している者が、企業運営の妨げとなるような行動、態度に出る恐れのある者かどうかに大きな関心を抱き、採否決定にあたってその者の性向、思想等の調査を会社が行うことは、終身雇用が行われている社会では、合理性を欠くものとは言えない。

次に、労働基準法 第3条は、従業員の信条によって賃金その他の労働条件について差別することを禁じているが、これは雇入れた後の労働条件についての制限であって、雇入れそのものを制約する規定ではない。

会社は、従業員の雇入れにおいては広い範囲の自由があるけれども、一旦雇入れた後においては広い範囲の自由はない。

労働基準法 第3条は、従業員の労働条件について信条による差別な取扱いを禁止しているが、特定の信条を持っていることを解雇事由として定めることも、労働基準法 第3条でいう労働条件に関する差別な取扱いとして、違反行為と解釈される。

このことは、法律が、会社の雇用の自由について雇入れの段階と雇入れた後の段階との間に区別を設け、前者については会社の自由を広く認める反面、後者については、従業員の既得の地位と利益を重視して、その保護のために、一定の限度で会社の解雇の自由に制約を課すべきであることを示すものである。

解説−均等待遇

雇用契約において、思想、信条の自由(憲法第14条、第19条)と営業の自由、財産権の保障(憲法第22条・第29条)が対立して争われた裁判です。

この裁判では、憲法は、会社と従業員の関係には適用されないものとして、思想、信条を理由として、採用を拒否したとしても、原則的には違法にはならないと判断しました。

また、労働基準法 第3条は、従業員の国籍、信条又は社会的身分を理由として、差別的な取扱いを禁止していますが、これは採用する前の段階では適用されないことが示されました。つまり、採用の判断材料として思想、信条を考慮しても違法にはならないということです。

ただし、採用した後に思想、信条を理由として、解雇も含めて、差別的な取扱いをすることは許されません。

なお、この裁判では、学生運動の内容が解雇事由として正当かどうか(違法行為があったのかどうか等)という審理が十分に尽くされていないとして、高等裁判所に差し戻されました。

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