均等待遇【丸子警報器事件】

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丸子警報器事件 事件の概要

女性の臨時社員は、女性の正社員と同じ組立てラインに配属されて、同じ仕事に従事していました。

また、勤務時間と勤務日数も正社員と同じで、正社員と同じようにQCサークル活動にも参加していました。

女性臨時社員は、正社員と同じ仕事をしているにもかかわらず、正社員と比べて、低い賃金が支給されていました。

これは不当な賃金差別で、同一(価値)労働同一賃金の原則に違反しているとして、正社員の賃金との差額の支払いを求めて、女性臨時社員が提訴しました。

丸子警報器事件 判決の概要

同一(価値)労働同一賃金の原則については、これを定めた法律は存在しない。

ただし、労働基準法第3条や第4条の規定は、社会的身分や性による差別を禁止するものであるが、その根底には、労働者は等しく報われなければならないという均等待遇の理念が存在している。

同一(価値)労働同一賃金の原則の基礎にある均等待遇の理念は、賃金格差の違法性の判断において、重要な判断要素として考慮されるべきである。

そして、その理念に反する賃金格差は、会社の裁量の範囲を逸脱したものとして、公序良俗に違反する場合がある。

女性臨時社員の提供する労働内容は、その外形面においても、会社への帰属意識という内面においても、同じ組立てラインで従事する女性正社員と同一である。

このような場合、会社は、一定年月以上勤務した臨時社員には、正社員となる途を用意するか、臨時社員の地位はそのままとしても、同一労働に従事させる以上は、正社員に準じた年功序列の賃金体系を設ける必要があった。

にもかかわらず、女性臨時社員のまま、女性正社員との顕著な賃金格差を維持拡大しながら、長期間雇用を継続したことは、同一(価値)労働同一賃金の原則の根底にある均等待遇の理念に違反する格差であり、公序良俗違反として違法となる。

ただし、均等待遇の理念は抽象的なもので、均等に扱うための前提となる諸要素の判断に幅がある以上は、その幅の範囲内で待遇の差に会社の裁量を認めざるを得ない。したがって、女性臨時社員と女性正社員の賃金格差が全て違法となるものではない。

最も重要な労働内容が同一であること、一定期間以上勤務した臨時社員には年功という要素も正社員と同様に考慮すべきであること、その他の事情に加えて、会社が賃金格差を正当化する事情を何ら主張立証していないこと等を考慮すると、女性臨時社員の賃金が、同じ勤続年数の女性正社員の8割以下となるときは、許容される賃金格差の範囲を越えて、公序良俗違反として違法となる。

解説−均等待遇

女性の臨時社員と正社員の間に賃金格差があり、その差額の支払いを求めた裁判です。

同一(価値)労働同一賃金の原則を定めた法律は存在しないけれども、その基礎にある均等待遇の理念は、賃金格差の違法性の判断においては、重要な判断要素として考慮されることが示されました。

同一労働をしていて、同じ勤務年数の者で比べて、女性臨時社員の賃金が、女性正社員の賃金の8割以下のときは、公序良俗違反として、その差額の支払いを認めました。

また、この裁判では、労働基準法第3条の違法性も問われていました。臨時社員という雇用管理上の身分は、労働基準法第3条で定めている「社会的身分」には該当しないと判断しています。そのため、(男性)正社員との賃金格差の是正は認められませんでした。

この裁判以降も、正社員と非正社員の賃金格差に関する裁判がありますが、業務内容や採用基準、責任の程度などに差があるとして、差額の支払いを認めなかったケースが多いです。この丸子警報器事件では、労働内容が同一であることが重視されたようです。

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