退職者に就業規則を適用
退職者に就業規則を適用
- 会社を退職した者に、就業規則を適用できますか?
- 会社を退職した者とは雇用関係がありませんので、原則的には、就業規則を適用することはできません。しかし、事案によっては、就業規則に基づいて権利を主張することができます。
退職者に就業規則を適用
労働基準法の適用
会社を退職した者に就業規則を適用できるかどうかを考える前に、退職者に労働基準法は適用されるのでしょうか。
労働基準法(第9条)によって、労働者とは、「会社に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されています。
退職した者は会社に使用されませんし、賃金が支払われることもありません。退職した者は労働者に該当しませんので、退職者に労働基準法は適用されません。
就業規則も労働基準法と同様に、会社と従業員(労働者)という関係があって成立するものですので、就業規則も退職した者(解雇された者)には適用されないと考えられます。
賃金の請求権
労働基準法(就業規則)の中でも、労働時間や休憩、休日、休暇など、実際の勤務を前提とする規定が適用されないことは明らかです。
しかし、賃金の未払いがある場合は、退職したとしても(解雇されたとしても)、労働基準法や就業規則(賃金規程)に基づいて、会社に対して支払いを請求できます。
これは退職者に就業規則を適用するものではなく、在籍中に支払い義務が発生した賃金を請求するものです。
労働基準法(第115条)によって、「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から5年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から2年間行わない場合においては、時効によって消滅する。」と規定されています。
ただし、経過措置として、賃金(退職手当を除く)の請求権は3年間となっています。
賃金や残業手当については、退職した後も3年間は請求する権利がありますので、それまでは労働基準法や就業規則が適用されると考えることもできます。
また、退職金は、そもそも退職することが支給する条件になっています。未払いの退職金がある場合は、退職した後も5年間は、就業規則(退職金規程)に基づいて請求できます。
年次有給休暇の請求権
年次有給休暇とは、労働日の勤務を免除して、賃金を支払うという制度です。退職日以降は、労働日はありませんので、年次有給休暇を取得することはできません。
退職(解雇)に伴って、未消化の年次有給休暇の請求権は消滅して無効になります。退職日以降は、労働基準法や就業規則の年次有給休暇に関する規定は適用されません。
そのため、退職を予定している従業員が会社に、「未消化の年次有給休暇を買い取って欲しい」と申し出ることがあります。
会社に買い取る義務はありませんので、従業員の申出を拒否したとしても、会社が労働基準法違反に問われることはありません。ただし、引継ぎ等の事情がある場合は、従業員の申出に応じるケースもあります。
競業避止義務
退職者に対して、競合企業に再就職することを禁止する場合があります。競業避止義務と言いますが、いくつかの条件を満たしている場合は、就業規則や誓約書に基づいて、退職者に対して競業企業への再就職を禁止することができます。
また、就業規則の適用とは異なりますが、営業秘密を不正に取得、使用、開示した場合は、不正競争防止法に基づいて処罰の対象になります。
懲戒処分
在職中に懲戒解雇に相当するような行為をしていたことが、退職後に発覚した場合はどうなるのでしょうか。
そのような事実が発覚したとしても、法律的に退職が有効に成立した後に、退職をなかったことにはできません。したがって、退職者に就業規則を適用して、在籍中にさかのぼって懲戒解雇をすることはできません。
また、懲戒処分は、雇用関係があることを前提にして、職場の秩序を維持する必要があることから認められています。退職した者が職場の秩序を乱すことはありませんので、懲戒解雇以外の減給や出勤停止等の懲戒処分も行うことはできません。
もし、信用失墜行為等によって、会社が損害を受けた場合は、就業規則から離れて、民事裁判によって損害賠償を請求する方法が考えられます。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。