退職者への就業規則の適用
採用内定者と就業規則
- 会社を退職した者に、就業規則は適用できるのでしょうか?
- 適用することを考えている内容によりますが、就業規則は会社が雇用している従業員に適用するものですので、原則的には、会社を退職した者(雇用関係がない者)に適用することはできません。
労働基準法の適用
会社を退職した者に就業規則を適用できるかどうかを考える前に、労働基準法は適用されるのでしょうか。
労働基準法では、労働基準法が適用される「労働者」を、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義しています。
退職した者は会社に使用されませんし、使用されなければ賃金が支払われることもありません。したがって、退職した者は労働者に該当しないため、労働基準法は適用されないことになります。
労働基準法が適用されないにもかかわらず、就業規則が適用されるという理屈は考えにくいので、就業規則も同様に、退職した者(解雇された者)には適用されないと考えられます。
賃金等の請求権
労働基準法(就業規則)の中でも、労働時間や休憩、休日など、実際の勤務を前提とする内容が適用されないことは、議論の余地がありません。
しかし、賃金等の未払いがある場合は、退職したとしても(解雇されたとしても)、労働基準法や就業規則(賃金規程)に基づいて、会社に対して支払いを請求できます。
賃金は、労働の対償として支払われるものですので、ある程度の時間のずれが生じます。賃金に関しては、退職(解雇)と同時に無効、無関係になるということはありません。
労働基準法(第115条)でも、「この法律の規定による賃金、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する」と規定されています。
賃金や残業手当、災害補償については、退職した後も2年間は請求する権利があるということで、それまでは労働基準法や就業規則(賃金規程)が適用されると考えることもできます。
また、退職金は、そもそも退職しないと支給されないものです。未払いの退職金がある場合は、退職した後も5年間は、就業規則(退職金規程)に基づいて請求できます。
年次有給休暇の請求権
会社を退職して未消化の年次有給休暇がある場合に、会社に「未消化の年次有給休暇を買い取って欲しい」と言ってくる方がいます。会社は退職者の要望に応じても構いませんが、会社に買い取る義務はありません。
年次有給休暇とは、出勤日の勤務を免除して、賃金を支払うという制度です。退職日以降は、出勤日がありませんので、年次有給休暇を取得することはできません。
年次有給休暇の買取りについては、労働基準法では想定されていませんので、退職者からの買取りの要望を拒否したとしても、会社が労働基準法違反に問われることはありません。
退職(解雇)に伴って、労働基準法や就業規則の年次有給休暇に関する規定(未消化の年次有給休暇の請求権)は無効になります。
競業避止義務
会社が退職者に、競合企業に再就職することを禁止する場合があります。
競業避止義務と言いますが、いくつかの条件を満たしている場合は、就業規則や誓約書に基づいて、退職者に対して競業企業への再就職を禁止することができます。
また、退職者が在職中に営業秘密やノウハウを不正に盗用したりした場合は、不正競争防止法に基づいて処罰の対象になります。
懲戒処分
懲戒解雇に相当するような行為を在職中にしていたことが、退職後に発覚した場合はどうなるのでしょうか。
そのような事実が発覚したとしても、法律的に退職が有効に成立した後に、退職をなかったことにはできません。したがって、既に退職した者に就業規則を適用して、在籍中にさかのぼって懲戒解雇とすることはできません。
また、懲戒処分は、雇用関係があることを前提にして、職場の秩序を維持する必要があることから認められています。退職した者が職場の秩序を乱すことはありませんので、就業規則の懲戒処分の規定を適用することはできません。
もし、信用失墜行為等によって会社が損害を受けた場合は、就業規則(雇用関係)から離れて、民事裁判により損害賠償を請求することになります。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。