採用内定者に就業規則を適用
採用内定者に就業規則を適用
- 就業規則に、従業員に研修の受講を命じることがあると規定しています。採用内定者に就業規則を適用して、研修の受講を命じることができますか?
- 就業規則は、入社日以降に適用するものと考えるのが無難です。会社が一方的に研修の受講を命じるのではなく、会社から採用内定者にその研修の意義を説明して、本人が同意すれば問題はありません。
採用内定者に就業規則を適用
採用内定とは
会社が採用試験を行って、本人に採用決定の通知をして、本人が誓約書を提出する等して、入社の意思表示をした時点で、労働契約が成立します。
新規学卒者を採用する場合は、4月1日を入社日としている会社が多いです。また、中途採用をする場合も、引継ぎ等の都合で入社日まで期間が空くことがあります。
採用内定とは、労働契約が成立しているけれども、入社日が先で実際には勤務していない状態のことを言います。
労働基準法の適用
採用内定者に就業規則を適用できるかどうかを考える前に、採用内定者に労働基準法は適用されるのでしょうか。
労働基準法(第9条)で、労働基準法が適用される労働者とは、「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」と定義されています。
内定期間中は会社に出勤しません(使用されません)し、賃金が支払われることもありません。したがって、採用内定者は労働者に該当しませんので、原則的には、労働基準法は適用されないと考えられます。
しかし、厚生労働省が発行しているリーフレットで、「採用内定により労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定取消しには、労働基準法第20条、第22条等の規定が適用されます」と明示されています。
労働基準法第20条は「解雇の予告」、第22条は「退職時等の証明」について定めた規定です。
また、同じリーフレットで、「採用内定により労働契約が成立したと認められる場合には、採用内定取消しは解雇に当たり、労働契約法第16条の解雇権の濫用についての規定が適用されます」と明示されています。
内定期間中は労働者には該当しませんが、労働契約自体は成立していますので、その解約(解雇)に関しては、労働基準法及び労働契約法の規定が適用されます。
就業規則の適用
採用内定者に対する就業規則の適用について、争われた裁判例がなく、学説でも内定日(労働契約が成立した日)から適用できるという見解と、入社日(勤務を開始した日)から適用できるという見解に分かれています。
労働契約法の第7条では、「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」と規定されています。
要するに、労働契約を締結すれば、就業規則が適用されます。しかし、内定期間中は、就業規則の労働時間や休憩、休暇、賃金など、実際の勤務を前提とする部分が適用されないことは明らかです。
また、一般的に、内定者は学生で授業があったり、前職の従業員として勤務したりしていますので、内定期間中に、会社が就業規則を根拠に業務命令をして、従わせることは難しいです。入社をする前から会社に対して不信感を持たれる恐れがあります。
研修の受講等を考えている場合は、会社が一方的に命じるのではなく、本人の状況を考慮した上で、その研修の意義を説明して、本人から同意を得て受講してもらう方法が望ましいです。
ただし、その場合に、万一、研修に関連して事故が生じた場合は、労災保険の適用を受けられない可能性が高いです。健康保険を利用することになります。
原則的には、労働者と認められる場合に限って、労災保険が適用されます。そのためには、@研修の受講が強制・義務で、A研修の内容が入社後の業務に不可欠なもので、B研修の時間に対して賃金が支払われている、という3つの要件を満たしていることが、労災認定を受けられる要件とされています。
労災認定を受けられるような研修については、入社後に行うことが適切と思います。会社としては、内定期間中は、就業規則を適用すること(業務命令)はできないと考えるのが無難です。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。