就業規則は誰も見ていない?

就業規則は誰も見ていない?

  • 就業規則を作成して、事務所の本棚に置いていますが、従業員が見ている様子はありません。そういうものでしょうか?
  • 何もなければ、従業員が就業規則を見ることはありません。

就業規則は誰も見ていない?

新しく採用した従業員が会社の制度を確認するために、また、会社が新しく就業規則を作成したり、変更したりしたときも、就業規則を読むことがあると思います。しかし、何もなければ、従業員が就業規則を見ることはありません。それが日常で、平和な状態とも言えます。

就業規則は誰も見ていないからといって、適当に作成して良いものではありません。「何かあったとき」の拠り所となりますので、どのように作成するのかは重要なことです。

就業規則を見る機会と言えば、例えば、従業員が退職しようと思っている場合です。退職する場合の手続きがどのように規定されているのか、賞与の支給日までは在籍した方が良いのか、年次有給休暇は何日取得できるのか等、確認したい事項があると思います。

退職の際にトラブルが生じやすいケースとして、賞与の支給日には既に退職しているけれども、賞与の対象期間には在籍していた場合です。

就業規則(賃金規程)に、賞与は支給日に在籍している従業員に支給することを規定していれば、有効と認められます。したがって、賞与の対象期間に勤務していたとしても、支給日に既に退職した者については、賞与を支払わなくても構いません。

一方、そのような規定がない場合は、従業員から「賞与は支払われるべきだ」と主張されて、賞与を請求される可能性があります。

また、サービス残業を強いられていた従業員が、就業規則(賃金規程)にどのよう規定されているのか確認をして、労働基準監督署に申告する等して、退職時に請求するケースもあります。以後の付き合いは考えなくても良いので、退職や解雇を機会にトラブルが表面化することが多いです。

就業規則の規定の仕方によって、会社に有利になったり、不利になったりします。労働基準法等の法律に違反する記載は無効ですが、労働基準法で定められていない事項については、就業規則で自由に定められます。

例として挙げた賞与の対象者を支給日に在籍している従業員に限定する取扱いについては、労働基準法では規定されていません。就業規則(賃金規程)に基づいて処理できます。

労働基準法にも就業規則にも取扱いが定められていない事態が生じたときは、根拠がありませんので、会社と従業員がお互いに都合の良いように考えてトラブルになります。

他社の就業規則やモデル就業規則を利用して簡単に作成した就業規則では、トラブル事例の想定の範囲が狭いものが多いです。ある程度のレアケースまで想定していないと、規定が不十分で、トラブルが生じやすいです。

実際にトラブルが生じないと、就業規則の重要性は実感されませんが、過去の裁判例を考慮した就業規則を作成することが望ましいです。

そこまで念入りにして就業規則を作成したにもかかわらず、誰も見ていないと、拍子抜けするかもしれませんが、将来、「何かあったとき」に必ず役立ちます。


執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。

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