就業規則はなぜ必要?
就業規則が必要な理由
- そもそも就業規則は、どうして必要なのでしょうか?
- 就業規則がない状態で組織が機能するのであれば、理想的と思います。しかし、実際はなかなか難しいものです。就業規則は組織発展の土台です。
就業規則が必要な理由
就業規則に対して、次のような否定的な考えを持っている経営者がいます。
- 「会社が不利になるから、作りたくない」
- 「従業員を締め付けることになるから、作らない方が良いのでは?」
- 「就業規則を作っても誰も見ないから、作らなくても同じ」
会社と従業員の関係が円満な場合は、就業規則は必要とされません。規則がなくて、信頼関係に基づいて職場が機能するのであれば、理想的な状態と言えます。
飲酒運転をする者がいなければ、道路交通法に基づいて、飲酒運転を取り締まる必要がありません。飲酒運転や犯罪のない社会が理想ですが、実際には難しいです。
労働基準法の規定
労働基準法(第89条)によって、従業員数が10人以上の会社は、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務付けられています。就業規則が必要な理由の1つです。
しかし、従業員数が10人未満だからといって、就業規則は作成しなくても良いということではありません。
全ての問題は就業規則から
稀に発生する大きな問題も、日常発生する小さな問題も、全ては就業規則でどのように記載されているかが起点になります。そのため、就業規則は「会社の法律」と言われることがあります。
何か問題が生じたときに、的確な就業規則があれば、ほとんどの問題は手間取ることなく解決できます。
例えば、就業規則(賃金規程)で、賞与の支給対象者を「賞与の支給日に在籍している者」と規定していれば、賞与の支給日の前に退職した従業員には、賞与を支給する義務はありません。【大和銀行事件】
しかし、就業規則がなかったり、このような規定がなかったりすると、トラブルになります。
実際に、賞与の支給日の前に退職していたけれども、賞与の支給対象期間に在籍していた従業員が、会社に対して賞与の支給を求めて、裁判に訴えました。その結果、裁判所は、勤務していた期間に応じて、賞与を支払わなければならないと判断しました。【ビクター計算機事件】
トラブルが生じる可能性がある労働条件や取扱いについては、トラブルを先回りして、会社の意思を反映した就業規則にしておけば、そのように進められます。知識や経験によって、どこまでトラブルを想定できるのかが重要になります。
就業規則は組織発展の土台
従業員が1人なら口頭で伝えれば済みますが、従業員が増えると、口頭による説明は限界があります。また、その場限りで適当なことを言ったり、人によって異なる対応をしていると、従業員から不信感を持たれます。
そうならないように、文書にして全員に共通するルール、つまり、就業規則が必要になります。ルールが明確になっていると、従業員は公平に取り扱われますので、安心して働けます。会社に対する信頼に繋がります。
「社長が規則だ」といった家族的な経営から、組織的な「会社」に飛躍するために、就業規則が役立ちます。就業規則は、組織の発展に欠かせない土台です。
自律型社員の育成
就業規則を作成することによって、有給休暇の取得や残業手当の支払について、従業員の権利意識を助長することがあります。
「労働基準法を守っていたら経営が成り立たない」という中小零細企業があります。しかし、現在は法令順守やコンプライアンスが重視されています。中小零細企業も同じです。
労働基準法の法律違反が発覚して、労働基準監督署から是正勧告が出されると、その「経営が成り立たない」状態に追い込まれます。賃金の請求権は3年ですので、3年分の割増賃金を短期間で支払うよう求められる可能性があります。
利益を上げることは大変で時間が掛かりますが、不測の事態が生じると一瞬にして大きな打撃をもたらします。3年分の割増賃金を短期間で支払うより、その都度、毎月支払っていた方が、事前に準備ができますので、まだ楽です。
適正な就業規則の規定に基づいて、一定の有給休暇を与えたり、正確に残業手当を支払ったりして、従業員の権利を認めた上で、会社が利益を出せる体質に変化することがベストではないでしょうか。
従業員の権利を認めると同時に、従業員の自己責任について、理解させることが重要です。
「私の会社は有給休暇が取れないから...」と諦めて悲しく話す従業員がいる会社より、自分のやるべき仕事を理解して、自分の判断で有給休暇を取れる会社の方が、従業員はやる気を出して働いてくれるのではないでしょうか。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。