就業規則と雇用契約の相違

就業規則と雇用契約の相違

  • 雇用契約書で従業員に通知した内容と就業規則の内容が違っている場合は、どうなるのでしょうか?
  • 雇用契約書の内容と就業規則の内容を比較して、従業員にとって有利な方が適用されます。

就業規則と雇用契約の相違

労働基準法(第15条)によって、従業員を採用するときは、雇用契約書や労働条件通知書を交付して、労働条件を本人に明示することが義務付けられています。そのように、従業員と個別に約束した労働条件を雇用契約(労働契約)と言います。

就業規則は、労働基準法(第89条)で作成が義務付けられているもので、従業員に共通する労働条件やルールを定めたものです。例えば、賃金の締切日や支払日については、個別に定めるより一律にルールとして定めておいた方が効率的です。

雇用契約書と就業規則には従業員の労働条件を記載しますので、記載事項が重複します。例えば、就業規則には賃金(手当)の決定方法を記載して、具体的な支給額は本人に交付する雇用契約書で定めるという取扱いになります。

そして、労働契約法(第7条)によって、労働契約の内容は、就業規則で定める労働条件によると規定されていますが、但し書きで、雇用契約書で就業規則より有利な労働条件を定めている場合は、雇用契約書で定める労働条件を優先することが規定されています。

また、労働契約法(第12条)によって、就業規則で雇用契約書より有利な労働条件を定めている場合は、就業規則で定める労働条件を優先することが規定されています。

2つの規定をまとめると、雇用契約書と就業規則の内容に相違がある場合は、従業員にとって有利な方が適用されます。

例えば、就業規則に「従業員が結婚したときは、慶弔休暇を取得できる」と規定していて、本人に交付した雇用契約書に「慶弔休暇は取得できない」と記載していたとします。

その場合は、従業員は慶弔休暇を取得できます。従業員にとって不利に定められている部分(労働条件)は無効になって、有利な就業規則が適用されます。なお、雇用契約書の全体が無効になるのではなく、その部分だけ置き換えられます。

これに関して問題になりやすいのが、パートタイマーがいるにもかかわらず、パートタイマー用の就業規則がない場合です。

パートタイマーに休職を適用しなかったり、退職金を支給しなかったりする場合は、パートタイマーに適用する就業規則に、「・・・。ただし、パートタイマーには休職を適用しない」のような除外規定を設ける必要があります。

そうすれば、雇用契約書と就業規則は両方とも、「パートタイマーには休職を適用しない」で一致しますので、どちらが有利・不利ということにはなりません。

このような除外規定がないと、パートタイマーから、休職の適用、退職金の支払い、慶弔休暇の取得等が求められる可能性があります。

それぞれの項目で除外規定を設けていれば、問題が生じることはありませんが、よく見ると漏れのある就業規則が結構あります。

以上については、パートタイマーに限りません。嘱託従業員、契約社員、アルバイトなど、雇用形態が正社員と異なる者の全てに言えることです。

一般的には、月給制の従業員と時間給制の従業員で、取扱いを区別している会社が多いので、それぞれの就業規則を作成することで、各項目について、適用の有無の思い違いを防止できると思います。


執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。

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