就業規則の遡及適用・施行日
就業規則の遡及適用・施行日
- 就業規則の施行日は、過去の日付でも良いですか?過去にさかのぼって就業規則を適用できますか?
- 従業員に不利益が及ばなければ、就業規則の施行日は、過去の日付でも構いません。過去にさかのぼって不利な取扱いをすることはできません。
就業規則の遡及適用・施行日
就業規則を見ると、最後に、「この就業規則は、平成○年○月○日から施行する」、「この就業規則は、令和○年○月○日から改訂施行する」といった施行日の記載があると思います。
「これを過去の日付にすれば、さかのぼって就業規則を適用できるのではないか?」と思われるかもしれません。しかし、原則的には、この施行日は将来の日付しか認められません。
就業規則は職場のルールを定めたもので、法律と似た性質を持っています。過去にさかのぼって就業規則を適用できるかどうかは、法律で考えると分かりやすいと思います。
例えば、法定速度が時速60km制限だった道路が、「1年前にさかのぼって時速40km制限にします」と変更されることはありません。その後、再び、「時速40km制限にしましたが、時速50km制限にします」と、変更が繰り返されると収拾がつきません。
現在は個人情報保護法が施行されていますが、施行日の前に個人情報保護法に違反する行為をしたとしても、処罰されることはありません。
就業規則も同じです。例えば、会社にとって見過ごせない言動があって、懲戒処分を行いたいけれども、今の就業規則の懲戒事由に、あてはまる事項がないとします。
就業規則の懲戒事由は、「このような言動をした従業員は、懲戒処分を行います」というルールを定めたものです。反対から見ると、「このような言動がなければ、会社は懲戒処分を行いません」と宣言したことになります。
その当時に許されていた言動が、後になって会社から「違反行為に該当する」と言われても、その当時は就業規則で明示されていませんので、従業員は違反行為をしないように注意することができません。
このような状態で、過去にさかのぼって懲戒処分をすることは、従業員にとっては酷で認められません。つまり、就業規則を過去にさかのぼって適用することはできません。
手当を見直したりして、賃金を減額する場合も同じです。従業員にとって不利益な取扱いですので、さかのぼって賃金(手当)を減額することはできません。当時の就業規則(賃金規程)に基づいて、賃金(手当)を支払う義務があります。
ただし、従業員から個別に同意が得られれば、不利益な変更も認められます。
また、新しい就業規則が、従業員にとって有利な取扱いになる場合は、トラブルが生じる可能性がありませんので、さかのぼって適用しても構いません。
現状の労働条件に基づいて就業規則を新しく作成して、従業員に不利益が及ばない場合も、施行日を過去の日付にすることは可能です。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。