さかのぼって休職を適用(休職の遡及適用)
さかのぼって休職を適用(休職の遡及適用)
- 従業員が病気のため長期間欠勤することになりそうです。現在、就業規則は未完成ですが、就業規則を作成して、さかのぼって休職を適用することは可能ですか?
- 原則としては、不可能ですが、新しく作成した就業規則を適用することについて、本人から同意が得られれば、さかのぼって休職を適用することができます。
さかのぼって休職を適用(休職の遡及適用)
休職とは
休職とは、私傷病等が原因で長期間勤務ができない場合に、一定期間勤務を免除する制度です。通常は、一定の休職期間が満了しても復職できないときは、自動的に退職扱いとなります。
休職は労働基準法等の法律で義務付けられている制度ではありませんので、休職制度を設けるかどうかは会社の自由です。ただし、休職制度を設ける場合は、就業規則に休職に関する事項を定める必要があります。
就業規則を作成していない場合、又は、就業規則に休職の規定がない場合は、その会社には休職制度がないということです。
休職制度がない場合は、自動的に退職扱いとすることはできません。私傷病の回復が見込めないで状態で、雇用の継続が困難な場合は、解雇を検討することになります。
就業規則の遡及適用
就業規則をさかのぼって適用することについては、原則的には認められませんが、例外的に従業員にとって有利に取り扱う部分に限って、適用が認められます。
例えば、懲戒処分については、従業員にとっては不利益な取扱いですので、さかのぼって適用することはできません。
従業員が懲戒事由に該当する言動をしたとしても、その言動をした時点で、就業規則は周知されていませんので、従業員は注意の仕様がありません。そのような状態で懲戒処分を行うことは酷です。
また、どのような行為が犯罪となるのか、それに対してどのような刑罰が科されるのか、予め明確に定めなければならないという罪刑法定主義という原則があります。会社の懲戒処分にも当てはまる考え方で、さかのぼって懲戒処分を行うことは、この原則に反します。
一方、従業員に手当をさかのぼって加算して支給するような場合は、反対する者はいません。
労働契約法(第9条)によって、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」と規定されています。
要するに、会社が就業規則を従業員にとって不利益に変更しようとする場合は、従業員から同意を得る必要があります。
また、労働契約法(第8条)によって、会社が個別に定めた労働条件を変更する場合は、本人から同意を得る必要があると定められていますが、会社が就業規則を従業員にとって有利に変更する場合は、そのような制限はありません。
有利に取り扱われる従業員から同意を得ることは容易ですので、さかのぼって適用できると考えられています。
仮に、一部の従業員が反対したことを理由にして、就業規則の有利な変更を無効にすることは、労働基準法や労働契約法の趣旨(労働条件の向上や労働者の保護)に反します。
休職の遡及適用
ところで、休職を定めている就業規則があって、就業規則を変更して休職期間を延長する場合は、従業員にとって有利な取扱い、休職期間を短縮する場合は、従業員にとって不利な取扱いとなることは明らかです。
しかし、就業規則を新しく作成したり、就業規則に休職の規定を追加する場合は、従業員にとって有利なのか不利なのか、一概には言えません。
例えば、休職期間を1年と定めて、休職(新しく作成した就業規則)を適用しなければ、解雇することになると、1年間は解雇が猶予されますので、従業員にとっては休職を適用する方が有利と考えられます。
一方、休職期間を3ヶ月と定めて、既にその3ヶ月が経過して退職扱いとすることになると、解雇の予告や雇用保険等の関係で、従業員にとっては休職を適用しない方が(従来の取扱いで解雇された方が)有利と考えることができます。
原則としては、従業員に周知していない就業規則は無効ですので、就業規則を作成して従業員に周知するまでは、就業規則はなかったものとして対応しないといけません。
したがって、本人が同意した場合に限って、さかのぼって休職(新しく作成した就業規則)を適用する方法が良いと思います。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。