手続きを怠っている就業規則
手続きを怠っている就業規則
- もし、会社が労働基準法で定められている手続きを怠って、就業規則を変更したときは、どうなるのでしょうか?
- そのような就業規則は無効と判断される可能性が高いです。また、労使間の対立を招くことになりかねませんので、従業員に変更の目的や必要性などを説明した上で、変更するようにしてください。
手続きを怠っている就業規則
就業規則を変更(作成)したときに、労働基準法で定められている手続きとしては、次の3つの事項があります。
- 従業員の過半数代表者から意見を聴くこと(労働基準法 第90条)
- 労働基準監督署に届け出ること(労働基準法 第89条)
- 就業規則を従業員に周知すること(労働基準法 第106条)
1.と2.については、従業員数が10人未満の会社には義務付けられていません。また、1.と2.は、手続き上の義務を定めただけですので、これを怠っているだけで直ちに就業規則が無効と判断されることはありません。無効にはなりませんが、従業員数が10人以上の会社の場合は、労働基準法に違反する行為ですので、見逃されることではありません。
3.の周知については、これを怠っていると、その就業規則は無効と判断されます。10人未満の会社も、10人以上の会社も同じです。
例えば、就業規則に懲戒処分の事由を1つ、会社が追加したとします。しかし、従業員にその就業規則の内容を周知していなければ、従業員はそのことについて注意の仕様がありません。そのような状態で会社の懲戒処分が認められるとすると、従業員にとっては酷な話です。
そのため、労働契約法 第7条において、次のように規定されています。
「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」
「就業規則を労働者に周知させていた場合には」と、周知していることが有効と認められる条件になっています。
就業規則の不利益変更
また、就業規則の変更に当たっては、不利益変更の問題が付いて回ります。就業規則は、従業員が変更(作成)するものではなく、会社が変更(作成)するものです。しかし、会社が自由に変更(作成)できる訳ではありません。
従業員にとって就業規則を有利に変更した場合は、労使間でトラブルにはなることは考えにくいので、そのまま有効になります。
しかし、賃金の手当を廃止したり、退職金を減額したり、従業員にとって不利になるよう就業規則(賃金規程や退職金規程等)を変更した場合は、不利益変更の要件を満たさないといけません。従業員と話し合いをすることが重要な要件の1つとなっていますので、話し合いを怠って、会社が勝手に不利益に変更したときは、その就業規則は100%認められることはあり得ません。
企業経営において、労使間の信頼関係が大切なことは言うまでもありません。会社が不意打ち的に就業規則を変更すると、従業員は会社に対して不信感を抱くことになるでしょう。信頼関係を構築することは大変なことですが、信頼関係は簡単に壊れてしまいます。
そうなると、労使紛争に時間を取られて、業務に専念することが難しくなります。その結果、売り上げが低迷するという悪循環が始まります。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、決して大袈裟なことではありません。実際によくある話です。
就業規則を変更するときは、その目的や必要性などについて、従業員に説明をして、理解を得るようにしてください。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。