従業員の過半数代表者がいない

従業員の過半数代表者がいない

  • 就業規則と36協定の届出を予定していますが、従業員の過半数代表者になってもらえる者がいません。どうすれば良いでしょうか?
  • 従業員の過半数代表者を選出できなければ、労働基準監督署に就業規則と36協定を提出できませんので、事情を説明して選出するようにしてください。

従業員の過半数代表者がいない

過半数代表者の役割

労働基準法(第89条)によって、従業員が10人以上の会社は、就業規則を作成して、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。

また、労働基準法(第90条)によって、会社が就業規則を作成又は変更したときは、従業員の過半数代表者の意見を聴いてそれを書面にした意見書を添付して、就業規則と一緒に労働基準監督署に提出することが義務付けられています。

意見書の内容は反対意見でも構いませんが、過半数代表者を選出できなければ、それ以前の問題ですので、就業規則は適正に届け出たことにはなりません。

また、労働基準法(第36条)のとおり、時間外労働や休日労働をする場合は、従業員の過半数代表者と36協定を締結して、労働基準監督署に届け出ないといけません。36協定を適正に届け出ていない状態で、時間外労働や休日労働をさせると、労働基準法違反になってしまいます。

過半数代表者の要件

労働基準法施行規則によって、従業員の過半数代表者は、次のいずれにも該当する者とされています。

  1. 管理監督者でない
  2. 投票や挙手等で選出された者であって、会社の意向に基づいて選出された者でない

管理監督者であれば、会社の状況を理解して、過半数代表者になってもらえるかもしれませんが、認められません。

過半数代表者になってもらえる者がいなければ、将来、管理監督者として期待している従業員が候補として挙げられます。もしくは、複数の従業員に他薦してもらって、最多の者や適任と思う者が考えられます。

会社の意向に基づいて選出された者は、過半数代表者と認められないことが定められていて、親睦会の代表を自動的に選出したり、会社が指名したりするケースが該当します。

過半数代表者のなり手がいない場合に、会社が特定の従業員に「過半数代表者になってもらえないか?」と依頼をすることは問題ないと考えられます。他に過半数代表者の立候補者がいる場合に、会社が指名した者以外の立候補を取り下げるように会社が圧力を加えることは問題があります。

会社から依頼をする場合は、上のように会社が困っている状況を説明して、本人から同意を得る必要があります。

また、会社は過半数代表者になったことを理由にして不利益な取扱いをしないこと、過半数代表者に選出するための手続き(投票や挙手等)を行うこと等について、説明を行います。

不利益な取扱いの禁止

労働基準法施行規則によって、次のように規定されています。

使用者は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

会社から依頼して過半数代表者になってもらう場合はあり得ないと思いますが、法律で不利益な取扱いをすることが禁止されています。不利益な取扱いとして、解雇、賃金の減額、降格等が例示されています。

過半数代表者の選出の手続き

過半数代表者になることに本人が同意したとしても、まだ決定ではありません。

就業規則の作成又は変更に伴って意見を聴取する者、36協定を締結する者など、目的を明らかにして、投票、挙手、話合い、回覧文書の配布等の方法によって、改めて過半数の従業員から同意・信任を得る必要があります。

そのため、もし、従業員の過半数の同意・信任が得られなければ、過半数代表者に選出されることはありません。その場合は、再度やり直しになります。

労使関係が円満でない表れでその点が心配ですが、反対した従業員に、「では、誰が適任か?適任者を推薦して欲しい」と聞けば、過半数代表者の候補者・適任者が見付かると思います。

過半数代表者に対する責任追及

会社から過半数代表者になって欲しいと依頼をすると、「責任を負いたくない」と敬遠されることが多いです。

しかし、36協定を締結したことについて、過半数代表者が他の従業員から不満を言われて困ったという話は、私の周りでは聞いたことがありません。普通は、36協定の内容は毎年同じで、変更部分は有効期間と従業員数だけという会社が多いです。

36協定も就業規則と同様に、従業員に周知することが義務付けられています。就業規則と一緒に書棚に置いたりしていても、36協定の内容を理解している従業員は少ないと思います。

ただし、就業規則を不利益に変更する場合は、過半数代表者1人に責任を押し付けるのは荷が重いと思います。

会社が就業規則を不利益に変更しようとする場合は、予め説明会を開催して、全ての従業員に対して、変更が必要な理由、変更内容、代替措置等を説明することが必須です。

なお、法律の改正に伴って就業規則を変更する場合は、従業員にとって有利に変更するケースがほとんどです。その場合は、他の従業員から不満を言われることは考えにくいですし、変更理由については、「法律が改正されたから」と説明できます。


執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。

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