残業手当(残業時間)の計算|就業規則の規定例
残業手当(残業時間)の計算
- 残業手当を計算するときに、30分未満の残業時間は切り捨てることを就業規則(賃金規程)に記載したいのですが、可能でしょうか?
- 残業時間を切り捨てて計算していると、残業手当(賃金)の不払いとして、労働基準法違反になりますので、そのような内容を就業規則(賃金規程)に記載することはできません。
残業手当(残業時間)の計算
労働基準法で認められている端数処理の方法
労働基準法(第37条)によって、時間外労働をさせた場合は25%以上の割増賃金(時間外勤務手当)、休日労働をさせた場合は35%以上の割増賃金(休日勤務手当)、深夜労働をさせた場合は25%以上の割増賃金(深夜勤務手当)を支払うことが義務付けられています。
また、労働基準法(第24条)によって、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と規定されています。賃金(割増賃金)を適正に支払っていないと、賃金の不払いとして、この規定に違反することになります。
また、労働基準法(第92条)によって、就業規則は労働基準法に違反してはいけないことが定められています。もし、就業規則が労働基準法に違反している場合は、労働基準法の方が強制的に適用されます。労働基準法は労働条件の最低基準を定めた法律ですので、従業員が(労働基準法を下回る)就業規則の内容に同意していたとしても同じです。
そして、通達によって、割増賃金(残業手当)を計算するときに、次の方法に限って、端数処理が認められています。
- 1ヶ月の時間外労働、休日労働、深夜労働のそれぞれの時間数の合計に1時間未満の端数が生じた場合に、30分未満の端数を切り捨てて、それ以上を1時間に切り上げること
- 1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に1円未満の端数が生じた場合に、50銭未満の端数を切り捨てて、それ以上を1円に切り上げること
- 1ヶ月の時間外労働、休日労働、深夜労働のそれぞれの割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合に、50銭未満の端数を切り捨てて、それ以上を1円に切り上げること
1時間未満の端数が生じた場合に、30分未満の端数を切り捨てて、それ以上を1時間に切り上げる方法が認められていますが、これは1ヶ月の時間外労働(残業時間)の合計時間数のことです。毎日の残業時間(時間外労働の時間)は、1分単位で計算することが前提となっています。
また、従業員に一方的に不利益を押し付けることはできませんので、切捨てだけを行うのではなく、30分以上の端数は1時間に切り上げることとされています。
したがって、毎日30分未満の残業時間を切り捨てる取扱いは、労働基準法に違反しますので、認められません。就業規則に毎日30分未満の残業時間を切り捨てることを規定したとしても、無効になります。
タイムカードの打刻時間と残業時間(労働時間)
残業手当(割増賃金)は、実際の残業時間(労働時間)に基づいて支払わないといけません。これが原則です。
タイムカードで労働時間を管理している会社が多いですが、タイムカードの打刻時間は出勤した時刻及び退勤した時刻を示すもので、実際の残業時間(労働時間)と誤差が生じます。
個々の職場によって異なりますが、一般的には5分や10分以内で、毎日その程度の誤差が生じることを合理的に説明できれば、誤差(端数)は切り捨てても認められる可能性が高いです。
しかし、実際の残業時間(労働時間)とタイムカードの間に30分の誤差が生じることは考えにくいです。毎日30分未満の端数を切り捨てて計算していると、労働基準監督署による調査があったときに、労働基準法違反として是正勧告が出される可能性が高いです。
就業規則(賃金規程)に残業時間を切り捨てることを規定していると、余計に指摘を受けやすくなります。
以上のとおり、残業時間(労働時間)は1分単位で計算することが原則ですが、それが面倒な場合は、従業員に30分単位で残業を命じる方法があります。実際に命令どおりの時間で残業を終わっていれば、30分単位で残業時間(労働時間)を計算できます。
また、タイムカードで残業時間(労働時間)の管理をしている場合は、始業の直前、終業の直後にタイムカードを打刻するよう指導してください。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。