付加金の支払【江東ダイハツ自動車事件】

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江東ダイハツ自動車事件 事件の概要

会社が従業員を解雇したのですが、労働基準法(第20条)で義務付けられている解雇予告手当を支払っていませんでした。

そのため、従業員が、解雇予告手当及びこれと同額の付加金の支払いを求めて、会社を提訴しました。

そして、第一審で従業員の主張が認められたため、従業員は、更に、付加金に対して、第一審の判決が会社に送達された日の翌日から支払日まで、年5分の割合で遅延損害金を支払うよう求めました。

江東ダイハツ自動車事件 判決の概要

労働基準法第114条の付加金の支払義務は、裁判所が付加金の支払いを命じる判決が確定して初めて発生するものである。

したがって、判決が確定する前は、付加金の支払義務は存在しないし、付加金に対する遅延損害金も発生する余地はない。

判決が確定した後に、会社が付加金を支払わないときは、会社は履行遅滞の責任があるから、従業員は年5分の割合で遅延損害金の支払いを請求することができる。

本件において、従業員は、付加金の支払いを命じた第一審の判決が会社に送達された日の翌日から支払日まで、付加金に対して年5分の割合で遅延損害金を支払うことを求めている。

先に説示した内容に照らすと、従業員が請求している中で、付加金の支払いを命じた判決の確定日までの遅延損害金の支払いを求める部分は、失当として認められない。

しかし、判決の確定日の翌日から支払日まで、年5分の割合で遅延損害金の支払いを求める部分は、正当として認められる。

解説−付加金の支払

会社が従業員を解雇したのですが、労働基準法で義務付けられている解雇予告手当を支払わなかったため、従業員が解雇予告手当と付加金の支払いを求めて、裁判になったケースです。

ここまではよくありそうなトラブルですが、この裁判では、付加金に対して遅延損害金を請求できるのか、請求できるとすると起算日はいつなのかが争点になりました。

労働基準法(第20条)によって、会社が従業員を解雇するときは、原則として30日以上前に予告をすることが義務付けられています。また、予告期間を設けない場合は、解雇予告手当(30日分以上の平均賃金)を支払うことが義務付けられています。

また、労働基準法(第114条)によって、会社が解雇予告手当を支払わなかったときは、従業員の請求により、裁判所は解雇予告手当と同額の付加金を支払うよう命じることができます。悪質と判断された会社は、制裁として2倍の金額を支払わされることになります。

そして、遅延損害金については、民法によって、支払い義務のある者が債務を履行しなかった場合は、年5%の法定利率で損害賠償を請求できることが定められています(定められていました)。なお、民法が改正されて、現在(2022年)の法定利率は、年3%になっています。

この裁判では、付加金の支払義務は、裁判所の命令があって初めて発生するものであるから、判決が確定する前は支払義務がないし、遅延損害金が発生する余地もないこと、判決が確定した後に付加金の支払義務が生じて、判決の確定日の翌日から遅延損害金が発生することが示されました。

なお、労働基準法(第114条)では、次のように、裁判所が付加金の支払いを命じることが規定されています。

「裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第9項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から五年以内にしなければならない。」

「裁判所の命令=判決の確定」として、その翌日から遅延損害金が発生することが明らかになりました。つまり、第一審の判決が確定しなかった場合は、付加金の支払い義務及び遅延損害金は発生しません。