懲戒委員会の設置|就業規則の規定例
懲戒委員会の設置
- 就業規則に、懲戒委員会を設置する規定を設けようと思うのですが、いかがでしょうか?
- 個人的には、そのような規定は設けない方が良いと思います。
懲戒委員会とは
従業員が就業規則の懲戒の事由に該当する言動を行ったときは、会社が懲戒処分を行うかどうか、また、懲戒処分の具体的な内容を決定します。
このときに、公正を図るために懲戒委員会を開催して、複数の委員によって懲戒処分について決議をすることがあります。この懲戒委員会では、本人に弁明の機会を与えたり、関係者から意見を聴取したりして、事実関係の調査や審議を行います。懲罰委員会や賞罰委員会と呼ばれることもあります。
経営者が独断で懲戒処分の内容を決めると、客観性が乏しく恣意的に判断したのではないかという疑念が残りますが、懲戒委員会を開催することで、決定した懲戒処分の合理性が高まります。
懲戒委員会の設置は会社の自由
労働基準法等の法律で、懲戒委員会を設置することは義務付けられていません。設置するかどうかは会社の自由です。
しかし、就業規則に「懲戒処分をするときは懲戒委員会において決定する」という規定があったり、就業規則の一部として懲戒委員会規程を作成している場合は、懲戒委員会の開催が義務付けられます。
そして、懲戒委員会の開催が義務付けられているにもかかわらず、開催を怠ったまま懲戒処分をしたときは、その懲戒処分は無効と判断されます。
懲戒処分が有効と認められるためには、条件の1つとして、手続きが適正であることが求められます。本来、懲戒委員会の設置は自由であるにもかかわらず、会社がわざわざそのような規定を設けている場合は、懲戒処分を行う際に欠かせない重要な手続きと位置付けられます。
特に、従業員としての身分を失わせる懲戒解雇を行うときは、懲戒委員会の開催を怠ることは許されません。客観的に見て懲戒解雇が相当であったとしても、無効と判断されます。
実際にあった裁判ですが、従業員が刃物で社長の腹を刺して重症を負わせました。それで、会社はその従業員を懲戒解雇したのですが、会社が定めていた手続きを怠ったことを理由として、その懲戒解雇は無効と判断されました。
懲戒委員会の設置は慎重に
懲戒委員会を開催することにより、懲戒処分の合理性が高まるというメリットと、開催を怠ったことにより、懲戒処分が無効になるというリスクを比較すると、メリットよりリスクの方が大きいです。
そのため、当事務所では、就業規則に懲戒委員会の規定を設けることは、基本的にはお勧めしていません。懲戒委員会を開催しないことも考えられる場合は、設けるべきではありません。
就業規則を作成するときに、このような説明を受けて重要性を理解した上で規定した場合は、当分の間は問題は起きないでしょう。しかし、経営者が2代目、3代目になったときに、重要性が認識されないまま引き継がれると、リスクが現実になってしまいます。
歴史のある会社の就業規則を見る機会がありますが、正にそのような状態である(就業規則には懲戒委員会を開催する規定があるけれども、実際に懲戒処分をするときには開催していない)という会社が少なくありません。
以上のリスクを十分に理解した上で、懲戒委員会を設置する規定を設けるかどうか慎重に検討してください。
内規で定めるという方法も
就業規則として従業員に周知をすると、懲戒委員会の設置が義務付けられます。
とりあえず、懲戒委員会規程を作成して、就業規則として位置付けるのではなく、内規という位置付けにすることも考えられます。内規ですので、労働基準監督署には届け出ないで、従業員にも周知しません。
内規に、委員会の構成や審議事項、弁明の機会を与えること等をまとめておきます。こうすれば、懲戒委員会の設置は義務付けられませんので、万一、怠ったとしても問題になることはありません。
一方、内規どおりに懲戒委員会を開催すれば、内規であっても就業規則であっても客観性に大きな違いはありませんので、決定した懲戒処分の合理性は同じように高まります。つまり、就業規則の規定の有無に関係なく、同じ効果が得られます。