始末書の提出拒否|就業規則の規定例
始末書の提出拒否
- 業務命令に違反した従業員に対して、就業規則に基づいて、けん責(譴責)の懲戒処分を行いましたが、本人は始末書を提出しません。減給や出勤停止に切り替えても良いでしょうか?
- 違反行為に対して、会社が懲戒処分を決定して実行したときは、後になって別の懲戒処分に切り替えることはできません。
始末書の提出拒否
けん責・戒告
懲戒処分をする場合は、就業規則に懲戒の種類及び事由を定めていることが条件になっています。就業規則を作成していない会社は、懲戒処分を行うことができません。
一般的な就業規則では、軽い順に次のような懲戒処分が定められています。
- けん責(譴責)
- 減給
- 出勤停止
- 諭旨退職
- 懲戒解雇
けん責(譴責)とは、始末書を提出させて将来を戒めるもので、最も軽い懲戒処分です。また、戒告として、同じ内容を定めているケース、始末書の提出を伴わないケースがあります。なお、具体的な処分の内容は、就業規則の規定の仕方によります。
そして、始末書については、主に次の2つで構成しているものが一般的です。
- 事実経過を記入する部分
- 謝罪、反省、誓約することを記入する部分
特に決まった形式はありませんので、記入欄の構成は、それぞれの会社で決定します。
始末書の提出拒否
会社が、けん責を行って、本人が始末書を提出すれば問題はありませんが、本人が始末書を提出しないことがあります。その場合は、次のような疑問が出て来ます。
- 始末書の提出は、強制できるのか?
- 強制できない場合は、他の懲戒処分を行えるのか?
会社と従業員は労働契約の関係にあって、従業員は会社の指示に従って業務を遂行することが義務付けられていますが、個人の意思は尊重されるべきと考えられています。憲法においても、思想・信条の自由が保障されています。
したがって、謝罪や反省を求めるような始末書の提出を強制することはできません。始末書を提出するかどうかは、本人の意思に委ねられます。
次に、刑事事件の裁判において、一事不再理という原則があります。判決が確定したときは、同一の刑事事件について、再度の審理は許されないというものです。
また、二重処罰の禁止という原則もあって、1つの行為に対して処罰を決定した後に、別の処罰を重ねて科すことはできません。これが許されると、際限なく処罰が行われることになります。
会社が行う懲戒処分は、違反行為をした従業員に対する制裁罰ですので、一事不再理や二重処罰の禁止の原則は、就業規則の懲戒処分にも当てはまります。
そのため、違反行為をした従業員に対して、会社が懲戒処分を行ったときは、同一の違反行為を理由にして、後から懲戒処分を追加することは許されません。
例えば、けん責を行って、従業員が始末書を提出しないことを理由にして、出勤停止の懲戒処分を行うと、二重処罰に該当します。また、けん責を取り消して出勤停止に切り替えると、一事不再理の原則に反します。
つまり、最初に、けん責を行った時点で、その違反行為に対する懲戒処分は終了します。
なお、懲戒処分の出勤停止の内容として、「始末書を提出させ、出勤を停止する」と規定している就業規則が一般的です。「始末書の提出」と「出勤の停止」という2つの処分を行うことになっていますが、2つの行為をセットにした処分が出勤停止と考えられますので、この場合は二重処罰には該当しません。
顛末書・報告書の提出
けん責は懲戒処分であって、始末書の提出は業務ではありません。そのため、会社は、始末書の提出を命令・強制することはできません。
しかし、懲戒処分の対象になった言動が、業務に関連するものであれば、どのような事実があったのか、会社は報告を求めることができます。謝罪や反省を求めない、事実経過を確認するための顛末書や報告書であれば、会社は業務命令として提出を強制できます。従業員はそれに応じる義務があります。
けん責を行って、従業員が始末書の提出を拒否した場合は、始末書の提出は諦めて、顛末書や報告書の提出を求めるよう切り替えた方が賢明です。事実関係を把握できないまま放置するより、再発防止に役立てられる可能性があります。
異なる違反行為の発生
1つの違反行為に対して、二重に懲戒処分を行うことはできませんが、別の違反行為が発生したときは、改めて懲戒処分を行えます。
なお、始末書を提出しないという行為は、その原因となった違反行為と一体のものと考えられますので、始末書の提出拒否を別の違反行為とみなすことはできません。就業規則の懲戒事由として、「始末書を提出しないとき」と定めていても認められません。
また、以前に懲戒処分を受けたにもかかわらず、違反行為を繰り返した従業員については、情状を考慮して、重い懲戒処分を科すことができます。就業規則の懲戒事由に、「懲戒処分を再三に渡って受け、改善の見込みがないとき」といった規定を設けておくと良いでしょう。
懲戒処分の対象になる違反行為を繰り返して、改善の見込みがない場合を想定したものですので、新しい違反行為がなければ、改めて懲戒処分を行うことはできません。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。