懲戒処分に降格を追加|就業規則の規定例

懲戒処分に降格を追加した就業規則

  • 就業規則の懲戒処分の1つとして、降格を設けたいのですが...?
  • 「人事権の行使として行う降格」と「懲戒処分として行う降格」の使い分けができれば、設けても良いと思いますが、そうでない場合は設けない方が無難です。

就業規則の懲戒処分に降格を追加すると、

原則として、会社には誰をどこに配置するかという人事権があります。嫌がらせ等の不当な動機がなくて、合理的に説明できる理由があれば、会社の判断で自由に配置を変更できます。

したがって、本人の同意がなくても、例えば、課長から部長に昇進することができますし、期待していた成果を上げられなかったときは、再び課長に降格することができます。

また、役職手当を支給している場合は、部長に見合った役職手当から課長に見合った役職手当に減額できます。ただし、役職手当以外の基本給等を減額する場合は、原則として本人の同意が必要になります。

次に、就業規則の懲戒処分の1つとして、降格を定めているケースがあります。これは従業員が違反行為をしたときに、制裁罰として科すものです。この懲戒については、労働契約法によって、次のように規定されています。

「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」

要するに、違反行為の重さと懲戒処分の重さが釣り合っている必要があり、違反行為に対して厳し過ぎる懲戒処分は無効になります。人事権の行使として行う場合と比べて、懲戒処分として行う場合は制約があります。

そして、例えば、パワー・ハラスメントやセクシュアル・ハラスメント等の違反行為をした課長がいたとすると、管理者として相応しくない行為ですので、人事権の行使として、係長や一般従業員に降格することが考えられます。

一方、就業規則の懲戒事由として、パワー・ハラスメントやセクシュアル・ハラスメント等に関する規定があって、懲戒処分に降格を定めている場合は、制裁罰として、降格処分を行うことも考えられます。

違反行為があった場合は、両方の対応が考えられますが、制裁罰として降格処分を行うと、問題になることがあります。

一事不再理の原則や二重処罰の禁止の原則という考え方があって、会社が行う懲戒処分にも適用されます。つまり、1つの違反行為に対して、会社が懲戒処分を行った後に、重ねて懲戒処分を行うことができません。

したがって、懲戒処分として降格を行った場合は、重ねて出勤停止等の懲戒処分をすることは認められません。懲戒処分としては、降格を行って終わりになります。先に出勤停止等の懲戒処分をしたときは、後から懲戒処分として降格は行えません。

一方、人事権の行使として降格を行った場合は、二重処罰には当たりませんので、就業規則に基づいて出勤停止等の懲戒処分を行えます。

就業規則の懲戒処分の1つに降格を定めていると、降格と出勤停止の両方を行ったときに、従業員から「二重処罰ではないか?」と指摘される恐れがあります。

懲戒処分通知書ではなく、事前に辞令を交付して、降格は人事権の行使として行ったものであると説明できれば、就業規則の懲戒処分に降格を定めても問題はありません。

しかし、その前に、懲戒処分に降格を定めていなければ、就業規則に定めていない懲戒処分は行えませんので、自動的に人事権の行使として行ったことが明らかになります。二重処罰に該当する可能性はゼロです。

通常は、人事権の行使として降格を行えますので、懲戒処分の1つとして降格を定めることのメリットは余りないように思います。普通は会社の選択肢が多い方が望ましいですが、選択肢が多いことが原因で問題が生じることもあります。

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