懲戒処分の限度|就業規則の規定例

懲戒処分の限度

  • 不祥事が発覚したときに、「6ヶ月間停職させる」、「3ヶ月間報酬を2割減額する」というような報道を見掛けることがありますが、当社の就業規則を見ると、懲戒処分が限定的で緩いようです。厳しい内容に変更できますか?
  • 会社が行う懲戒処分については、一定の制限があります。就業規則の内容も、その制限の範囲内で設定する必要があります。

停職・出勤停止

まず、「停職」というのは、公務員に対して使われる言葉で、国家公務員法(第82条)によって、「職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。」と規定されています。

そして、国家公務員法(第83条)によって、次のように規定されています。

  1. 停職の期間は、1年をこえない範囲内において、人事院規則でこれを定める。
  2. 停職者は、職員としての身分を保有するが、その職務に従事しない。停職者は、第92条の規定による場合の外、停職の期間中給与を受けることができない。

また、人事院規則12-0(職員の懲戒)によって、「停職の期間は、1日以上1年以下とする」ことが定められています。

職員(公務員)が懲戒処分に相当する言動をしたときに、懲戒処分の1つとして、「停職」が定められています。職務を停止して、その期間中の給与を支払わないという処分で、一般企業における「出勤停止」と同じものです。

そして、ご質問の「6ヶ月間の停職」という報道は、公務員に対する処分と思います。

一般企業の従業員については、労働基準法が適用されますが、労働基準法では出勤停止の期間に関する規定はありません。

しかし、労働基準法の前身となる工場法では、出勤停止の期間は7日を限度とするという通達が出されていました。その当時の名残で、現在も出勤停止の期間は1週間や2週間を限度としている就業規則が一般的です。

会社の就業規則で出勤停止の期間を2週間以内と定めている場合は、2週間を超える期間の出勤停止を科すことはできません。また、就業規則で出勤停止の期間を1年以内と定めたとしても、違反行為の悪質さと懲戒処分重さが釣り合っていないと、懲戒処分は無効と判断されます。

国家公務員に対する懲戒処分の指針を見ると、一般企業では懲戒解雇が認められるようなケースでも、免職(一般企業の懲戒解雇)と並んで停職が想定されています。

1年間や半年間という長期間の出勤停止は、公務員の場合は認められるとしても、一般企業では認められにくいです。懲戒解雇が認められるような違反行為については、長期間の出勤停止より、懲戒解雇や諭旨退職を選択する方が合理的と思います。

以上により、出勤停止の期間は、通常は2週間以内、長くても1ヶ月以内とするようお勧めいたします。

減給

減給についても、国家公務員と一般企業の従業員では、取扱いが異なります。

国家公務員については、人事院規則12-0(職員の懲戒)によって、減給は、1年以下の期間、給与月額の5分の1(2割)以下の額を減額するものと定められています。この規定に照らし合わせると、不祥事を起こした公務員に対して、3ヶ月間給与月額の2割を減額することはあり得ることです。

一方、労働基準法(第91条)では、制裁規定の制限として、次のように定められています。

要するに、1回の違反行為に対して減給できるのは、平均賃金の1日分の半額が上限で、違反行為が複数回あったとしても、減給できるのは、賃金月額の10分の1(1割)が上限とされています。

したがって、一般企業の従業員については、3ヶ月間賃金月額の2割を減額することはできません。もし、就業規則で定めたとしても、労働基準法の方が優先されますので、法律違反として無効になります。

ところで、一般企業でも、3ヶ月間報酬を2割減額するというような報道がありますが、役員には労働基準法や就業規則は適用されません。

不祥事を起こした企業で厳しい処分を科したという内容が報道されることがありますが、よく見ると、会社の従業員ではなく、役員が自主的に役員報酬を返納していることを確認できると思います。


執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。

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