退職金に関する規定の追加|就業規則の規定例

退職金に関する規定の追加

  • 3年以上勤務した従業員が退職するときは、その都度、会社への貢献度等を考慮して、退職金を支給してきました。就業規則に、退職金を支給することを記載したいのですが、問題がありますでしょうか?
  • 具体的な制度として確立していない段階では、就業規則には、退職金に関する記載はしない方が良いです。

労働基準法と退職金

退職に伴って支給する一時金(年金で支給する場合もあります)は、一般的には「退職金」と呼ばれていますが、労働基準法においては「退職手当」と呼ばれています。

そして、労働基準法の第89条で、「常時10人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない」と定められていて、その事項の1つとして、

「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」

が挙げられています。要するに、退職金の制度がある場合は、適用範囲、退職金の決定方法、計算方法、支払方法、支払時期に関する事項を就業規則に記載しなければならないということです。

言い換えると、退職金の制度がない場合は、就業規則に記載する必要はありません。退職金を支払わないことも想定されていますので、この規定から退職金の支払は義務ではないことが分かります。

就業規則に退職金の記載をすると...

退職金の支払が義務付けられていないにもかかわらず、会社が、わざわざ積み立てて退職金を支払っているような場合は、従業員に退職金が支払われることを知らせたいと思うでしょう。会社が退職金を支払うために積み立てていることを従業員が知っていれば、自分達は大切にされていると感じて、それに応えようと仕事を頑張ってくれるかもしれません。

しかし、従業員が退職するまで、退職金が支払われることを知らなければ、会社の好意や有り難みが伝わりません。就業規則に退職金を支給することを記載したりして、在籍している間に従業員に知らせなければ、退職金が無意味なものになってしまいます。

だからと言って、就業規則に簡単に記載すれば良いということにはなりません。最初に労働基準法の規定を紹介しましたが、就業規則に退職金に関する記載をすると、会社に退職金の制度が存在すると解釈されます。

また、労使間で生じるトラブルの多くは、お互いの思い違いから生まれます。例えば、「3年以上勤務した従業員が退職するときは、その都度、会社への貢献度等を考慮して、退職金を支給することがある」といった規定1つだけでは、どのようにでも好きなように解釈できてしまいます。

中途半端にこのような記載があると、退職金を支給しないと決定した従業員にも、「退職金が支給される」と期待をさせて、トラブルになります。また、その期待が合理的と判断されたときは、退職金の支払いが義務付けられます。

退職金規程の作成

退職金を支払うことを従業員に知らせるために、就業規則に退職金に関する記載をしたいのであれば、適用範囲、退職金の決定方法、計算方法、支払方法、支払時期に関する事項を整理して、退職金規程として作成するべきです。また、退職金規程の中で不支給事由や減額事由を具体的に定めていれば、お互いの思い違いを防げるようになります。

退職金は法律で支給が義務付けられているものではありませんので、退職金の計算方法等については、会社が自由に決められます。ただし、一旦、退職金規程を作成したときは、会社は退職金規程に基づいて退職金を支給しないといけません。

また、退職金規程(就業規則)を変更して、退職金の支給額を減額することは難しいので、退職金規程を作成するときは、数十年先を見通しながら慎重に行わないといけません。中小企業の場合は、中小企業退職金共済の利用をお勧めいたします。

退職金規程を作成しないで、就業規則にも退職金に関する記載をしないで、その都度、退職金を支給しても構いません。しかし、このような方法は、お伝えしてきたように余り効果的なお金の使い方ではないように思います。

将来的に退職金の制度を作り上げて退職金規程を作成するか、退職金の支給は止めて、賞与に反映させたり、限られた原資の有効な使い道を検討するのが賢明かと思います。

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