就業規則と懲戒処分
就業規則と懲戒処分
- 就業規則を作成していないと、懲戒処分は行えないのでしょうか?
- 懲戒処分は就業規則を根拠にして行うものですので、就業規則がない会社は、懲戒処分を行えません。
就業規則と懲戒処分
例えば、特定の地域で、タバコの路上喫煙を禁止して、違反した者には罰金を科すという条例があります。当然、このような条例のない地域で、タバコを喫煙しても罰金を科せられることはありません。
法律違反をしていなければ罰せられないのと同じように、就業規則に懲戒処分に関する規定がないと、会社は懲戒処分を行えません。会社が懲戒処分を行うためには、その根拠となるものが必要ということです。
このような考えから、労働基準法(第89条)によって、就業規則に記載しなければならない事項として、「表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」が挙げられています。制裁と懲戒は同じものです。
したがって、懲戒処分を行う場合は、就業規則の作成義務がない10人未満の会社も、就業規則を作成して、懲戒に関する規定を設ける必要があります。就業規則は労働基準監督署に提出していなくても、従業員に周知していれば有効ですので、懲戒処分を行えます。
そして、労働基準法では、「制裁の種類及び程度に関する事項」を記載することになっていますので、就業規則には、懲戒処分の種類と程度(内容)を定めます。
懲戒処分の種類としては、一般的に、懲戒解雇、諭旨退職、出勤停止、減給、譴責(戒告)があります。降格(降職)を定めている会社もあります。
懲戒処分は就業規則に基づいて行いますので、例えば、出勤停止の記載がない場合は、出勤停止の懲戒処分は行えません。
また、懲戒処分の種類ごとに、その内容や程度を定める必要があります。例えば、出勤停止は出勤を停止する期間やその期間の賃金の取扱いについて、減給は減給をする額(の上限)について、具体的に定めます。
そして、どのような言動を懲戒処分の対象とするのかという事由(横領、機密漏洩、経歴詐称等の違反行為)を明示する必要があります。
就業規則で、懲戒の事由(違反行為)として定めていない言動については、原則的には、懲戒処分ができませんので、想定される懲戒の事由(違反行為)を漏れなく記載することが重要です。
しかし、全部を書き出すことは、実際には不可能ですので、想定外の言動でも対応できるように、最後に、「その他前各号に準ずる行為のあったとき」と包括的な規定を設ける方法があります。
ただし、その場合でも、具体的に記載していれば、該当することが明確になって、懲戒処分が有効と認められやすくなりますので、想定される事由を多く列挙するべきです。
以上のように、懲戒処分の種類と懲戒の事由を就業規則に記載することによって、労働契約の内容として成立します。つまり、「そのような言動をしたときは、懲戒処分を受け入れます」と従業員が同意したことになります。
なお、実際に会社が懲戒処分を行うときは、事実確認を行った上で、本人に弁明の機会を与えないといけません。事情によっては、懲戒処分を軽減することもあり得ます。
懲戒処分は以上のとおり、就業規則を作成している会社でないと行えませんが、普通の解雇については、就業規則がない会社でも行えます。例えば、高額の横領をした従業員は、懲戒解雇ではなく、普通解雇を行うことになります。
解雇については、労働契約法(第16条)によって、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています。
客観的に合理的な理由があって、社会通念上相当であると認められる場合は、解雇は有効と認められます。ここでは、就業規則の有無は条件になっていません。解雇は雇用契約の解約であって、懲戒(制裁)とは性質が異なります。
懲戒(制裁)については、労働契約法(第15条)によって、次のように規定されています。
「使用者が労働者を懲戒することができる場合において」という条件があります。これが、就業規則の記載ということになります。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。