就業規則の持ち出し禁止

就業規則の持ち出し禁止

  • 従業員が就業規則をコピーして、社外に持ち出すことを禁止できますか?
  • 禁止することは可能ですが、望ましい対応ではないように思います。問題を抱えているようであれば、相談に乗ることも大切です。

就業規則の持ち出し禁止

持ち出しを禁止したい理由

就業規則の持ち出しを禁止したい理由によっては、問題が潜んでいるかもしれません。例えば、会社が労働基準法等に違反する取扱いをしているケースです。

従業員が就業規則を持ち出して、労働基準監督署に申告したり、労働組合に加入したり、弁護士事務所に相談に行ったり、労働審判を申し立てたりして、トラブルに発展するのではないかと不安になるのは分かります。

しかし、そのような場合に就業規則の持ち出しを禁止したとしても、余計に反発を招くだけで、何も解決しません。現在の違法な状態を改善することが重要です。

次に、「就業規則は社外秘とするべきだ」と考えているケースがあります。会社にとって重要な営業秘密や企業機密は適切に管理して、社外に漏洩することがあってはいけません。

不正競争防止法によって、営業秘密とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義付けられています。

就業規則は、全ての従業員に周知するものですので、営業秘密には該当しません。また、就業規則が社外に漏洩したとしても、会社が損害を受けたり、信用を失墜したり、不都合が生じることは考えにくいです。したがって、就業規則を社外秘とする必要性は余りありません。

なんでもかんでも社外秘としたがる経営者、とりあえず社外秘としておこうと考える経営者がいますが、本当に大事な営業秘密と同列の管理をしていると、営業秘密と認められなかったり、管理が疎かになって漏洩したりする恐れがあります。

本当に大事な営業秘密は、社外秘であることを明示した上で、鍵をして保管したり、パスワードを設定したりして、アクセスできる者を限定して、他の情報と区別して管理をする必要があります。

持ち出しを禁止するべき就業規則

ただし、次の就業規則は、持ち出しを禁止するべきです。

  1. 労働基準監督署の押印がある就業規則

会社が就業規則を作成して、労働基準監督署に2部届け出ると、労働基準監督署が受付印を押印して、1部が会社に返却されます。会社の原本となる就業規則で、提出を求められることがありますので、これについては持ち出しを禁止するべきです。

  1. 職場に備え付けている就業規則

労働基準法によって、就業規則は従業員に周知することが義務付けられていて、従業員が就業規則を見たいと思ったときに見られる状態にしておく必要があります。周知の方法の1つとして、職場に備え付ける方法が例示されています。

その場合に、従業員がその共用の就業規則を自宅に持ち帰ると、返却されるまでの間は周知できていないことになります。したがって、職場に備え付けている共用の就業規則の持ち出し(持ち帰り)は禁止するべきです。

就業規則のコピーの持ち出し

では、従業員が「就業規則をコピーして持ち帰りたい」と言ってきたときは、会社は応じないといけないのでしょうか。

労働基準法上は、職場に備え付けていれば、周知義務をクリアしています。就業規則のコピーを禁止したとしても、周知義務に違反したことにはなりません。したがって、コピーの持ち出しを認めるかどうかは、会社の判断によって自由に決められます。

就業規則を職場に備え付けていて、従業員が就業規則を確認したければ、そこで内容を確認できます。しかし、育児や介護に関連する制度については、1回読んだだけでは分かりにくいです。

コピーをして確認したいということは、何か事情があるのでしょう。育児や介護の問題を抱えているかもしれませんので、コピーを禁止するより、「何かあれば相談に乗るけど?」と伝えることも大切です。

ただし、就業規則を配布することはリスクがありますので、原則的にはコピーは禁止して、コピーをする場合は総務部長等に申請することをルールとする方法が良いと思います。

申請の際に、総務部長等から、現時点の就業規則で将来変更する可能性があることを説明したり、コピーを必要な部分に限定したりできます。


執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。

就業規則の運用について