就業規則の印刷と配布

就業規則の印刷と配布

  • 作成した就業規則は、従業員の人数分印刷して、各自に配布するのでしょうか?
  • 就業規則を印刷して従業員に配布する方法は、周知をするための方法の1つですが、労働基準法では別の方法も認められています。

就業規則の印刷と配布

労働基準法(第106条)によって、「就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によって、労働者に周知させなければならない。」と規定されています。

このような周知をしていない就業規則は、無効になります。

例えば、就業規則に懲戒に関する規定を設けていても、周知していなければ、従業員はどのような言動が懲戒の対象になるのか知ることができません。そのような状態で、従業員に懲戒処分を行うことは酷です。

したがって、会社が懲戒処分を行ったり、就業規則で定めている手続きやルールを従業員に守らせるためには、適正な方法で周知をすることが重要です。

そして、厚生労働省令(労働基準法施行規則)によって、周知をする方法として、次の方法が挙げられています。

  1. 職場の見やすい場所に掲示したり、備え付ける
  2. 印刷して従業員に配布する
  3. パソコン等に記録して、確認できるようにする

要するに、従業員が就業規則を見たいと思ったときに、直ぐに見られる状態にしておく必要があります。

就業規則を従業員に周知する方法として、「2.印刷して従業員に配布する」方法が挙げられています。しかし、この方法には、次のようなデメリットやリスクがありますので、当事務所ではお勧めしていません。

印刷代と人件費が掛かる

就業規則を従業員の人数分印刷すると、かなりの枚数になります。10人程度であれば、可能かもしれませんが、20人30人を超えると難しいと思います。

また、印刷を前提とすると、就業規則を作成した場合だけではなく、部分的に変更した場合も、その都度、人数分印刷しないといけません。

印刷代や人件費(コスト)が掛かりますので、ペーパーレスの時代に合っていないと思います。

適正に更新されない可能性がある

就業規則を作成した後も、法律の改正や制度の見直しに伴って、就業規則を変更する必要があります。

最新の状態を保持するために、古い就業規則と新しい就業規則を差し替える必要があります。しかし、従業員に配布すると、各自で差し替えられているか不明で、適正に更新されない可能性があります。

就業規則の差し替えを確実に行うために、前に配布をした就業規則を回収しようとしても、「就業規則はどこにあるのか分からない」という従業員が必ず現れます。

生産的でない作業で、無駄なコストが掛かります。回収不能で古い就業規則がどこかに残ったままになると、トラブルの原因になる恐れがあります。

第三者に渡る可能性がある

就業規則を従業員に配布すると、第三者に渡る可能性があります。

専門家に依頼して作成した就業規則であれば、問題はないと思いますが、そうでない就業規則は、法律に違反する規定があるかもしれません。そうなると、関係のない第三者から「ブラック企業だ!」と非難される恐れがあります。

また、賃金規程には、手当の構成や金額の決定方法が記載されています。ライバル会社に知られて引き抜きの手段として使われる可能性がゼロではありません。そのようなことがなくても、賃金を詮索されるのは気持ちが良いことではありません。

以上により、就業規則の周知は、「1.職場の見やすい場所に掲示したり、備え付ける」又は「3.パソコン等に記録して、確認できるようにする」のどちらかの方法が良いと思います。

どちらの方法も会社が管理できますので、就業規則は最新の状態を保持することができます。


執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。

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