労働条件の明示【日新火災海上事件】

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日新火災海上事件 事件の概要

会社は中途採用を計画して、求人広告に、「1989年卒の方なら、1989年に当社に入社した社員の現時点の給与と同等の額を約束いたします」のように記載して、募集を行いました。

また、会社の説明会や面接においても、中途採用者については、同年次の新卒採用者の平均的な格付による給与を支給すると説明していました。

これに応募して入社した従業員が、1年後に給与の格付が同年次の新卒採用者の下限に位置付けられていることを知りました。

これに対して従業員が、同年次の新卒採用者の平均的な格付による給与を支給することが雇用契約の内容として成立していたと主張して、実際の給与との差額の支払い、及び、不法行為による慰謝料の支払いを求めて、会社を提訴しました。

日新火災海上事件 判決の概要

会社の人事担当責任者が求職者(従業員)にした説明は、内部で決定している運用基準を明示しないで、かつ、同年次の新卒採用者と同等の給与待遇を受けられると信じさせるもので、不適切であった。

そして、従業員はそれを信じたと推認されるが、会社と従業員の雇用契約上、同年次の新卒採用者の平均的な格付による給与を支給する旨の合意が成立したと認めることはできない。したがって、従業員の未払賃金の請求は認められない。

また、従業員は、入社時の給与の格付の他に、その後の給与についても、同年次の新卒採用者の平均的な格付と同様に昇格・昇給する旨の合意が成立していると主張して、これに基づいて賃金の差額を請求しているが、この点も認められない。

会社は、中途採用者の初任給は同年次の新卒採用者の下限の格付とすることを内部の運用基準で定めていたにもかかわらず、中途採用者を獲得するために、応募者にそれを明示しないで、求人広告、説明会、面接において、給与について同年次の新卒採用者と差別しない、平均的な給与待遇を受けられると信じさせるような説明をした。

従業員は、そのような給与待遇を受けられると信じて会社に入社したが、その1年後に給与が同年次の新卒採用者の下限に位置付けられていることを知って、精神的な苦痛を受けたと認められる。

雇用契約を締結する過程において、募集時の会社の説明は、労働基準法第15条の趣旨に違反する不誠実な行為で、精神的な損害を受けた者に対する不法行為に該当するものと認められる。

解説-労働条件の明示

求人広告、説明会、面接で、同年次の新卒採用者の平均的な格付による給与を支給すると説明して、中途採用者を募集していたにもかかわらず、実際には同年次の新卒採用者の下限の格付に位置付けて給与を支払って、裁判になったケースです。

会社の運用基準で、中途採用者については、同年次の新卒採用者の下限の格付に位置付けることを定めていましたが、会社は虚偽の説明をしていました。

会社の説明を信じて入社した従業員が、差額の支払いを求めましたが、裁判所は、求人広告は労働契約の申込みの誘引であって、雇用契約の内容にはならないと判断して、差額の支払いを認めませんでした。

しかし、会社の対応は不誠実で、労働基準法(第15条)の労働条件の明示義務に違反する行為として、不法行為に基づく慰謝料100万円の支払いについては認めました。

求人票と実際の労働条件(賃金額)に相違があった八州測量事件でも、求人広告に記載していた賃金額は見込額であると判断して、差額の請求を認めませんでした。

改めて言うまでもありませんが、労使関係を損なうような不誠実な説明をして、従業員を募集するべきではありません。また、誤解を招くような表現になっていないか注意してください。