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福岡工業大学事件 事件の概要

大学に勤務する男性職員と女性が事実上の婚姻をしました。その後、実子がなかったので、男性職員は養子縁組をして、養子を迎い入れました。

そのまま数年が経過し、男性職員が死亡しました。男性職員と女性(内縁の妻)は婚姻の届出をしていませんでしたので、養子が法定相続人として男性職員の権利義務を承継しました。

男性職員の死亡に伴う退職により、大学は退職金を支給することになったのですが、就業規則(退職金規程)には単に「遺族に支給する」と規定されているだけで、内縁の妻と養子との間で退職金の受取について争いが生じてしまいました。

大学は債権者が不明という理由で、退職金を法務局に供託しました。

そして、養子が内縁の妻に対して、退職金の受給権が自身にあることの確認を求めて提訴しました。

福岡工業大学事件 判決の概要

大学は職員が死亡した後、就業規則(退職金規程)を改正して、「遺族の範囲及び順位は、私立学校教職員共済組合法第25条の規定を準用する」と追加した。

私立学校教職員共済組合法第25条を準用すると、国家公務員共済組合法第2条及び第43条が準用されることになる。

したがって、改正後の就業規則(退職金規程)によると、職員が死亡した場合に退職金が支給されるのは、次の遺族となる。

  1. 死亡した当時、職員によって生計を維持されていた。
  2. 第一順位は配偶者(事実上婚姻関係の者を含む)で、配偶者がいる場合は子には支給されない。
  3. 直系血族の間でも、親等の近い父母が孫より先順位となる。
  4. 嫡出子と非嫡出子は平等に扱われる。
  5. 父母や養父母は、養方が実方に優先する、

このように、改正後の就業規則(退職金規程)では、死亡退職金の遺族(受給権者)の範囲と順位について、民法による相続人の範囲と順位を決定する方法とは異なった定め方をしている。

これは職員に扶養されていた遺族の生活保障を目的として、民法とは別の立場で定めたもので、遺族(受給権者)は、相続人としてではなく、就業規則(退職金規程)に基づいて退職金の受給権を取得するものと考えられる。

更に、改正前の就業規則(退職金規程)では、死亡退職金は相続人ではなく遺族に支給されると定められていて、私立学校教職員共済組合法第25条、国家公務員共済組合法第2条、第43条は就業規則(退職金規程)を改正する前から施行されていた。

以上を考慮すると、改正前の就業規則(退職金規程)は、これらの法律の存在を前提としており、改正して規定を追加したのは、単にこの取扱いを明確にしただけと考えられる。

この考えを妨げるような主張や立証はされていないので、退職金が支給される遺族の第一順位は、職員に扶養されていた配偶者(事実上婚姻関係の者を含む)となる。したがって、本件の退職金は、内縁の妻に受給権がある。

解説−就業規則の作成と届出

職員が死亡したときに、退職金が内縁の妻に支給されるのか、養子に支給されるのか、が争われた裁判例です。

労働基準法第89条では就業規則に記載しなければならない事項として、「退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項」が挙げられています。

退職金の支給対象者や支給額については、従業員が退職する度に、支給の有無を確認したり、支給額を計算したりしますので、就業規則(退職金規程)で具体的に規定していると思います。

しかし、死亡による退職は比較的少ないケースですので、曖昧なままになっていることがあります。婚姻の届出をしている配偶者がいる場合は配偶者に支給するのでしょうが、この裁判例のように内縁の妻や養子がいるような場合は、例外中の例外で更に複雑になってしまいます。

誰に退職金を支給するのか(誰に受給権があるのかは)、その会社における退職金の目的や位置付けによって異なってきます。

民法上の相続財産とすると養子に受給権があるのですが、遺族の生活保障を目的として支給するものとすると内縁の妻に受給権があると考えられます。

労働基準法の施行規則と同じ考え方で、この裁判では内縁の妻に受給権があることが示されました。

退職金は高額になりますので、余計にトラブルになりやすいです。この裁判例と同じケースがあった場合に、退職金規程(就業規則)を見て、支給対象者が明確になっているか確認するようお勧めいたします。