労働時間の原則【大星ビル管理事件】

なるほど労働基準法 > 労働時間 > 労働時間の原則(1日8時間)

大星ビル管理事件 事件の概要

ビル管理会社の従業員が、会社が受託したそれぞれのビルに配属されて、ビルの設備の運転や点検、整備、ビル内の巡回監視等の業務に従事していました。

その中で、毎月数回、午前9時から翌朝9時までの24時間勤務をすることがあり、その間に合計2時間の休憩時間と、連続8時間の仮眠時間が与えられていました。

ただし、この仮眠時間中は、ビルの仮眠室で待機をして、警報が鳴ったりしたときは直ちに所定の作業を行うこととされていました。

24時間勤務の仮眠時間中に突発的な作業を行ったときは、就業規則に基づいて、会社は、その時間に対して時間外勤務手当や深夜就業手当を支給していました。

しかし、仮眠時間中に作業を行わなかったときは、1回につき、2,300円の泊まり勤務手当を支給するだけで、時間外勤務手当や深夜就業手当を支給していませんでした。

そこで、従業員が、仮眠時間中に作業を行ったかどうかにかかわらず、仮眠時間の全てが労働時間であるとして、仮眠時間に対する時間外勤務手当と深夜就業手当の支払いを求めて提訴しました。

大星ビル管理事件 判決の概要

労働基準法第32条の労働時間とは、従業員が会社の指揮命令下に置かれている時間を言う。

作業に従事していない仮眠時間が、労働基準法上の労働時間に該当するか否かは、従業員が会社の指揮命令下に置かれていたものと評価できるか否かによって、客観的に定まるものである。

そして、従業員が作業に従事していないというだけでは、会社の指揮命令下に置かれていないものと評価することはできず、従業員が会社の指揮命令下に置かれていないものと評価するためには、その時間に従業員が労働から離れることを保障されていなければならない。

したがって、作業に従事していない仮眠時間であっても、労働から離れることが保障されていない場合は、労働基準法上の労働時間に当たると言うべきである。

また、仮眠時間に労働契約上の役務の提供が義務付けられている場合は、労働から離れることが保障されているとは言えず、従業員は会社の指揮命令下に置かれているものと評価できる。

そこで、本件の仮眠時間については、仮眠室での待機と警報が鳴ったりしたときは直ちに所定の作業を行うことが労働契約上義務付けられていた。

所定の作業は、その必要が生じた場合に限られるとしても、その必要が生じることが皆無に等しい等、実質的に義務付けがないと認めることができるような事情もない。

以上より、本件仮眠時間は、全体として労働から離れることが保障されているとは言えず、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価できる。

したがって、本件仮眠時間は、作業に従事していない仮眠時間も含めて会社の指揮命令下に置かれているものであり、労働基準法上の労働時間に当たると言うべきである。

本件仮眠時間は労働基準法上の労働時間に当たるため、法定時間外労働及び深夜労働に対して、会社は労働基準法第37条に基づいて、時間外割増賃金深夜割増賃金を支払う義務がある。

解説−労働時間の原則(1日8時間)

作業に従事していない仮眠時間が、労働基準法上の労働時間に該当するかどうか争われた裁判例です。

一般的な感覚では、作業をしていない時間は、休憩時間と思われるかもしれません。しかし、現に作業をしていなくても、必要があったときに直ちに作業を行えるよう待機している時間(手待ち時間)は、休憩時間ではなく労働時間と判断されます。

休憩時間とは、労働から離れることが保障されている時間を言います。割増賃金は、労働時間に対して支払いが義務付けられるもので、休憩時間に対しては割増賃金を支払う義務はありません。

労働基準法上の労働時間とは、会社の指揮命令下に置かれている時間であることが示されました。

そして、この問題になった仮眠時間については、労働から離れることが保障されておらず、警報が鳴ったりしたときは直ちに所定の作業を行うこととされ、手待ち時間と変わらないものと判断されました。

このような勤務実態は、労働基準法第41条第3号の「断続的労働」に該当する可能性もあります。しかし、この会社では労働基準監督署の許可を得ていませんでしたので、これによる適用除外は認められません。

このような勤務をするときは、労働基準法第41条第3号の「断続的労働」の許可申請を行うのが良いでしょう。