労働時間の原則【日野自動車事件】

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日野自動車事件 事件の概要

従業員が、タイムカードの打刻時間が労働時間であると考えて、出勤時は会社が定める始業時刻前にタイムカードに打刻して、それから職場に移動、着替え等を行って、実際の作業を開始するときには始業時刻が経過していました。

退勤時も同様に、終業時刻が経過する前に作業を終了して、それから着替え等を行って、会社が定める終業時刻後にタイムカードに打刻していました。

会社は遅刻・早退に該当するとして、従業員に、始業時刻と同時に作業を開始、終業時刻と同時に作業を終了するよう注意しましたが、従業員は、タイムカード上は所定労働時間に間に合っていることから、遅刻・早退には当たらないと主張して、会社の指示命令を拒否しました。

従業員が遅刻・早退を繰り返したことを理由にして、会社は懲戒解雇を行いました。

これに対して従業員が、解雇は正当な理由がなく無効であると主張して、雇用関係が存続することの確認を求めて、会社を提訴しました。

日野自動車事件 判決の概要

原審の判断は、正当として是認することができる。

東京高裁(原審)

一般に労働基準法第32条の「労働時間」とは、従業員が会社の指揮命令の下に拘束されている時間のことを言う。

従業員が現実に労働力を提供する始業時刻の前段階である、入門から職場までの歩行に要する時間、作業服の着替えや作業靴の履き替えに要する時間を、労働時間に含めるかどうかは、就業規則や職場慣行によって決定するのが相当である。

入門から職場までの歩行、着替えや履き替えは、それが作業開始に不可欠であるとしても、労働力を提供するための準備行為であって、労働力の提供そのものではない。また、特段の事情がない限り、会社の直接の支配下に置かれているものではない。

したがって、これを一律に労働時間に含めることは、会社に不当な犠牲を強いることになり、相当とは言えない。

結局、これらを労働時間に含めるかどうかは、就業規則にその定めがある場合は就業規則の定めに従い、その定めがない場合は職場慣行によって決定するのが妥当である。

解説−労働時間の原則(1日8時間)

この会社では、入門時にタイムカードを打刻して、それぞれの職場に移動して、作業服に着替えたり、作業靴に履き替えたりしてから、作業を開始していました。入門(タイムカードの打刻)から職場までの移動時間、着替えや履き替えに要する時間が、労働時間に該当するかどうか争われた裁判例です。

入門から職場までの移動時間、着替えや履き替えに要する時間については、業務そのものではありませんが、準備時間として業務と切り離すことはできません。

原則的な考え方として、会社の指揮命令下に置かれている時間であれば、労働時間に該当すると考えられています。

入門から職場までの移動時間については、通勤途上と考えられますので、通勤時間として、通常は労働時間には該当しません。

着替えや履き替えに要する時間については、労働時間に該当する場合、労働時間に該当しない場合の両方があり得ます。

会社から従業員に対して、作業服の着替えや保護具の装着等を義務付けて、かつ、その着替えや装着等を会社の更衣室で行うよう義務付けている場合は、会社の指揮命令下に置かれている時間(会社による具体的な業務命令に従って行動している時間)として、労働時間に該当すると判断されます。【三菱重工業長崎造船所事件】で、そのように示されました。

一方、作業服の着替えを義務付けていても、会社内で着替えることを義務付けていない場合(自宅で着替えて出勤することを認めている場合)は、労働時間に該当するかどうかは、就業規則の規定によることとして、就業規則に規定していなければ慣行によることが、この裁判で示されました。

この会社では、始業時刻に作業を開始することが慣行になっていて、入門から職場までの移動時間、着替えや履き替えに要する時間については、労働時間に含めていなかったことから、労働時間には当たらないと判断されました。