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三菱重工業長崎造船所事件 事件の概要

完全週休二日制の実施に伴って、就業規則を変更して、所定労働時間を1日8時間と定めて、始業時刻と終業時刻の勤怠把握を、タイムレコーダーによる方法から次のように変更しました。

  1. 始業時刻に作業を開始できるよう、それまでに更衣を完了して
  2. 午前の終業については、所定の終業時刻に作業を中止して、
  3. 午後の始業については、所定の始業時刻に作業を開始できるよう作業場に到着して、
  4. 終業時刻に作業を終了して、終業時刻の後に更衣等を行うこととされ、

勤怠把握は、始業時に更衣を済ませて所定の場所にいるか否か、終業時に作業場にいるか否かを基準とすることになりました。

会社からは、作業に当たって、作業服や保護具等の装着を義務付けられ、この装着は所定の更衣所で行うものとされ、これを怠ると懲戒処分や就業拒否、成績査定に反映されて賃金の減額に繋がる場合がありました。

これらの就業規則の変更により、所定労働時間外に行うことを余儀なくされた

  1. 午前の始業時刻前の入退場門から更衣所までの移動時間
  2. 更衣所で作業服や保護具等を装着して、準備体操場までの移動時間
  3. 始業時刻前の副資材等の受出し、散水に要する時間
  4. 午前の終業時刻後に作業場から食堂まで移動して、作業服や保護具等を一部脱離する時間
  5. 午後の始業時刻前に食堂から作業場まで移動して、脱離した作業服や保護具等を再装着する時間
  6. 終業時刻後に作業場から更衣所まで移動して、作業服や保護具等を脱離する時間
  7. 手洗い、洗面、洗身、入浴を行って、通勤服を着用する時間
  8. 更衣所から入退場門までの移動時間

が、いずれも労働基準法上の労働時間に該当するとして、会社に対して、1日8時間を超える時間外労働に対する割増賃金の支払いを求めて提訴しました。

三菱重工業長崎造船所事件 判決の概要

労働基準法第32条の労働時間とは、従業員が会社の指揮命令下に置かれている時間をいう。

労働基準法上の労働時間に該当するか否かは、従業員の行為が会社の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かによって客観的に決定されるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めによって決定されるものではない。

そして、業務の準備行為等を事業所内で行うことを会社から義務付けられ、又は、これを余儀なくされたときは、その行為を所定労働時間外に行うものとされている場合であっても、その行為は特段の事情のない限り、会社の指揮命令下に置かれたものと評価できる。

したがって、その行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当する。

2.については、作業に当たって、作業服や保護具等の装着を会社から義務付けられ、また、この装着は事業所内の更衣所で行うものとされていたから、この装着、及び、更衣所から準備体操場までの移動時間は、会社の指揮命令下に置かれたものと評価することができる。

6.についても同様に、終業時刻後に、更衣所で作業服や保護具等の脱離を終えるまでは、会社の指揮命令下に置かれたものと評価することができる。

3.の副資材等の受出し、及び、散水に要する時間についても、会社の指揮命令下に置かれたものと評価することができる。以上の2.3.6.に要した時間は、労働基準法上の労働時間に該当する。

1.及び8.について、始業時刻前の入退場門から更衣所までの移動時間、及び、終業時刻後の更衣所から入退場門までの移動時間は、会社の指揮命令下に置かれたものと評価することができないから、労働基準法上の労働時間に該当しない。

4.及び5.について、会社は、休憩時間中は、従業員を業務から解放して自由に利用できる状態にしておけば足りるものと解されるから、休憩時間中に作業服や保護具等を脱離する時間及び再装着する時間は、特段の事情のない限り、労働基準法上の労働時間に該当するとは言えない。

7.については、作業の終了後に、事業所内の施設で、洗身等を行うことを会社から義務付けられていないため、その後の通勤服を着用する時間も含めて、会社の指揮命令下に置かれたものと評価することができず、労働基準法上の労働時間に該当しない。

解説−労働時間の原則(1日8時間)

どこまでが労働時間に該当するのかによって、賃金(割増賃金)の金額が異なります。そのため、どこまでが労働時間に該当するのかが問題になります。

この裁判では、労働時間かどうかは、会社と従業員の同意によって決まるのではなく、会社の指揮命令下に置かれたものと評価できるかどうかによって、客観的に決定されることが示されました。

会社が、始業時刻前に掃除や準備体操、朝礼等を義務付けていて、それが会社の指揮命令下に置かれたものと評価されると、労働時間として割増賃金の支払いが求められます。

この裁判では、業務の準備行為を事業所内で行うことを義務付けている場合は、会社の指揮命令下に置かれたものとして、労働時間に該当するものと判断しました。

工場では作業服の着用を義務付けている会社が多いですが、更衣を事業所内で行うことを義務付けていると、更衣に要する時間は労働時間と判断される可能性があります。自宅で更衣しても構わないという場合は、労働時間に該当しないものと考えられます。