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医療法人社団A事件 事件の概要

医療法人に医師として雇用され、雇用契約書には、次の内容が定められていました。

また、時間外労働をした場合の賃金については、賃金規程(就業規則)の定めによることとして、次の内容が定められていました。

医師は在職期間中に当直を13回行い、賃金規程(就業規則)に基づいて、合計27.5時間分の時間外労働(このうち合計7.5時間は深夜労働)に対する時間外手当として合計15万5300円、当直手当として合計42万円が支払われました。

賃金規程(就業規則)に基づいて支払われる時間外手当の対象とならない時間外労働に対する割増賃金については、1700万円の年俸に含まれることが合意されていました。

これに対して医師が、そのような合意は無効として、時間外労働と深夜労働に対する割増賃金の支払を求めて、医療法人を提訴しました。

医療法人社団A事件 判決の概要

労働基準法第37条が時間外労働等に対して割増賃金を支払うことを使用者に義務付けているのは、使用者に割増賃金を支払わせることによって、時間外労働等を抑制して、労働者に補償することを趣旨とするものである。

また、割増賃金の算定方法は、労働基準法第37条、政令、厚生労働省令で具体的に定められている。

労働基準法第37条は、これを下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付けるものであって、労働者に支払われる基本給や諸手当に割増賃金を含めて支払うという方法が、直ちに違法となる訳ではない。

一方、使用者が労働者に労働基準法第37条で定めている割増賃金を支払ったかどうかを判断するためには、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金を基礎として、労働基準法第37条で定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないかどうかを検討することになる。

この検討をする前提として、基本給等に含めて割増賃金を支払う場合は、「通常の労働時間の賃金に当たる部分」と「割増賃金に当たる部分」を判別できることが必要で、「割増賃金に当たる部分の金額」が「労働基準法第37条により定められた方法で算定した割増賃金の金額」を下回るときは、使用者はその差額を労働者に支払う義務がある。

医師と医療法人の間で、賃金規程(就業規則)に基づいて支払われる時間外手当の対象とならない時間外労働に対する割増賃金については、1700万円の年俸に含めるという合意があったものの、このうち時間外労働に対する割増賃金に当たる部分が明らかではなかった。

そうすると、医師に支払われた年俸について、「通常の労働時間の賃金に当たる部分」と「割増賃金に当たる部分」を判別することができない。

したがって、医療法人の医師に対する年俸の支払により、医師の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。

医療法人が医師に対して、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法第37条で定められた方法により算定した割増賃金を支払ったかどうか、その額等について更に審理を尽くさせるため、原審に差し戻す。

解説−残業手当

割増賃金を含めて年俸を支払っていてトラブルになったケースですが、この裁判では、あらかじめ年俸には割増賃金を含むことについて本人が同意していた上に、年俸が1700万円という高額であったことが特徴的です。

原審の高等裁判所では、医師という業務の特質に照らして合理性があったこと、労務の提供について自らの裁量があったこと、賃金が相当高額であったこと、から労働者の保護に欠ける恐れがないとして、医師の請求を棄却しました。

しかし、この最高裁では、従来の最高裁の判例に従って、賃金(年俸)のうち割増賃金に当たる部分が明らかではなかったことを理由にして、割増賃金が支払われたことにはならないと判断しています。

なお、従来の最高裁の判例では、@割増賃金に当たる部分を明らかにして、A割増賃金に当たる部分の金額が、労働基準法第37条で定められた方法によって算出した金額を下回っている場合に、その差額を支払うことを条件としています。

この2つの要件を満たしている場合は、割増賃金を含めて賃金を支払う方法(割増賃金を定額で支払う方法)が認められます。

なお、この裁判の特徴であった高額な賃金(年俸)については、考慮されませんでした。いくら賃金(年俸)が高額であってとしても、割増賃金として支払っている部分を具体的に明らかにしていなければ認められないということです。

賃金(年俸)が高額の者については、労働基準法41条2号の管理監督者に該当することが考えられますが、この医師の場合は該当しないこととして特に争われませんでした。