36協定【日立製作所武蔵工場事件】

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日立製作所武蔵工場事件 事件の概要

従業員が手抜き作業をしたことが分かったため、上司が残業をして、作業の手直しをするよう命じました。

しかし、従業員は残業を拒否して、翌日に命じられた作業を行いました。

会社の就業規則には、業務上の都合によりやむを得ない場合は、労働組合との協定により、1日8時間の実働時間を延長することがあるという規定が設けられていました。

この規定に違反するものとして、会社は、残業命令を拒否した従業員に対して、14日間の出勤停止の懲戒処分を行いました。この懲戒処分の後も、従業員は残業命令に従う義務はないという考えを変えず、3回繰り返して懲戒処分を受けることになりました。

そのため、会社は、悔悟の見込みがないものとして、この従業員を懲戒解雇しました。これに対して、従業員が、懲戒解雇は無効であると主張して提訴しました。

日立製作所武蔵工場事件 判決の概要

労働基準法第32条の労働時間を延長して労働させることについて、

会社が、従業員の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(36協定)を締結して、これを労働基準監督署に届け出た場合に、

就業規則に、一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働させることができるという規定があるときは、就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、

それが労働契約の内容になるので、その就業規則の規定に従って、従業員は労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負う。

本件の場合、時間外労働の具体的な内容は36協定によって定められており、この36協定では、会社が時間外労働を命じる場合は、時間外労働の上限時間を設定し、かつ、所定の事由を必要としている。

所定の事由のうち、「業務の内容によりやむを得ない場合」等は、概括的、網羅的であることは否定できないが、所定の事由が相当性を欠くということはできない。

したがって、就業規則の規定は合理的なものというべきである。つまり、会社は、36協定に定める所定の事由が存在する場合は、従業員に時間外労働をするよう命ずることができ、従業員は時間外労働をする義務を負う。

以上より、残業命令に従わなかった従業員に対して行った懲戒解雇が、権利の濫用に該当するということはできない。

解説−36協定

36協定を締結して、労働基準監督署に届け出ることによって、法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えて勤務をさせても、労働基準法違反にはなりません。

これは労働基準法の罰則が適用されないというだけで、時間外労働を命じることができる法的根拠にはなり得ません。

そして、時間外労働を命じるためには、36協定以外に、何が根拠になるのかということが議論になっていたのですが、この最高裁判決により、就業規則に時間外労働を命じることを規定していれば、労働契約の内容になるものと判断されました。

つまり、従業員から個別に同意を得なくても、就業規則の内容が合理的なものであれば、包括的に同意したものとして、会社は時間外労働を命じることができるようになります。また、従業員は会社の残業命令に応じる義務があります。