賞与の支給日在籍要件【ニプロ医工事件】

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ニプロ医工事件 事件の概要

会社の就業規則(給与規程)には、賞与は年2回、6月と12月に、賞与の算定基礎期間に勤務して、賞与の支給日に在籍している従業員に支給することが規定されていました。

しかし、労使交渉が難航して、毎年6月に支給していた夏期賞与を9月に支給することになりました。

その際に、賞与の支給日前の8月に退職した従業員がいたのですが、支給日に在籍していなかったため、会社は賞与を支給しませんでした。

これに対して従業員が、賞与の算定基礎期間は勤務して、本来の支給日である6月中は在籍していたことを理由にして、賞与の支払いを求めて、会社を提訴しました。

ニプロ医工事件 判決の概要

原審の判断は、正当として是認することができる。

東京高裁(原審)

過去の賞与の支給日は次のとおりで、会社は各支給日に在籍している者に賞与を支給して、各支給日に在籍していない者には賞与を支給しなかった。

これまでは、年2回の賞与を6月及び12月に支給して、賞与の支給日が2ヶ月以上遅延したことは1回もなかった。本件の賞与についても、当初、労働組合は支給日を6月20日として、会社と交渉していた。

支給日に在籍している従業員に賞与を支給するという慣行は、就業規則(給与規程)に賞与の支給時期として記載されている6月中又は12月中に支給日が決定された場合に限って、その支給日に在籍していない者には当期の賞与を支給しないという趣旨と考えられる。

もっとも、就業規則(給与規程)には、「但し都合により時期を変更することがある」という記載があるが、但書の趣旨は、この慣行を前提とした上で、資金の調達や労使交渉の状況など、特別な事情が生じた場合を想定して、6月又は12月とした支給時期を合理的な範囲で変更し得ることを明示したものと考えられる。

つまり、支給時期の変更に伴って、当然に支給対象者の範囲を変更して、その支給日に在籍している従業員を支給対象者とする慣行が適用されるわけではない。

したがって、本来6月に支給するべきであった賞与の支給日が2ヶ月以上遅延した場合も、支給日に在籍している者を支給対象者とすることについて、合理的な理由は認められない。

解説−賞与の支給日在籍要件

毎年6月と12月に賞与を支給していた会社で、6月分の賞与について、労使交渉が難航して支給日が9月に遅延しました。6月中は在籍していたけれども、実際の支給日前に退職した者に対して、会社が賞与を支給しなかったため、賞与の支給義務があるのかどうか争われた裁判例です。

賞与は、労働基準法等で支給が義務付けられているものではありませんので、支給条件等については、就業規則や雇用契約書の内容によります。

賞与には様々な性格があり、賃金の後払いと考えると、賞与の算定対象期間に勤務していた従業員については、退職したとしても、賞与を支給するべきです。しかし、将来への期待と考えると、退職した者については、不支給とすることに合理性があります。

賞与の性格については、それぞれの会社の考え方が優先されますので、就業規則(賃金規程)に、「賞与の支給日に在籍している従業員に対して賞与を支給する」と規定すれば、それが有効になります。将来への期待と考えて、賞与の支給日前に退職した者には、賞与を支給しなくても構いません。

原則的にはそうなのですが、例年の賞与の支給日には在籍していたけれども、例外的に支給日が遅れて、その間に退職した者の取扱いが問題になりました。

この会社の就業規則には、6月と12月に賞与を支給すること、支給時期を変更する場合があること、が記載されていたのですが、6月分の賞与について、労使交渉が難航して、9月に支給することになりました。

賞与の支給日在籍要件が有効となるのは、6月中に賞与を支給した場合に限ること、2ヶ月以上遅延して特段の事情がない場合は、賞与の支給日在籍要件は適用されないことが示されました。

つまり、本来の支給日である6月中は在籍していたので、6月分の賞与については、会社は支給する義務があるということです。