賃金の定義【前田製菓事件】

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前田製菓事件 事件の概要

会社に雇用され、工場長として勤務していました。その後、工場長を兼務したまま、代表権のない取締役に就任しました。

更にその後、社内でトラブルが生じたことにより、取締役を辞任し、会社を退職しました。

しかし、退職に際して、会社から退職金(退職慰労金)が支給されなかったことから、退職金(退職慰労金)の支払いを求めて、会社を提訴しました。

前田製菓事件 判決の概要

株式会社の取締役に対する退職慰労金は、その在職中の職務執行の対価として支給されるものであり、会社法第361条(旧商法269条)にいう報酬に含まれる。

取締役を退任したことにより、会社が支給する退職慰労金は、同条にいう報酬として、定款又は株主総会の決議によってその金額を定めなければならない。

解説−賃金の定義

取締役に支給される退職慰労金は、会社法第361条(旧商法269条)にいう報酬に該当し、定款又は株主総会の決議によってその金額を定めることとされています。しかし、その当時は、定款も株主総会の決議もなかったため、裁判所は退職慰労金の請求は認めませんでした。

一方、従業員に支給される退職金は、退職金規程(就業規則)に基づいて支給され、退職金規程(就業規則)では退職時の賃金を基礎として、退職金額を算出することになっていました。

しかし、会社から支払っていた金額は、取締役に対する役員報酬としていくら、従業員(工場長)に対する賃金としていくら、と明確に区別していませんでした。

労働基準法第11条では、「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」を賃金としています。裁判所は取締役に就任する前の賃金を基準にして、退職金の請求を認めました。

この裁判で問題になったように、従業員の地位を残したまま、取締役(役員)を兼務することがあります。

会社からいくら支払うか総額については本人と話し合ったとしても、「従業員の立場に対して支給する賃金」と「取締役(役員)の立場に対して支給する報酬」を区別していないケースが多いです。

身分や賃金(役員報酬)が混在していても、関係が円満な間は問題にはなりませんが、関係がこじれるとお互いが都合の良いように考えて、大きなトラブルに発展してしまいます。

トラブルを予防するためには、「従業員の賃金」と「取締役の役員報酬」を具体的な金額で明確に区別しておくことが大事です。

なお、このときに、取締役の性格の方が強い場合(役員報酬の方が賃金より高額の場合)は、雇用保険から外れることになります。賃金の方が高額で雇用保険の加入を継続する場合も、ハローワークに「兼務役員雇用実態証明書」を提出する必要があります。

また、仕事の内容によっては難しいですが、従業員としては一旦退職してもらって兼務しないようにする方法も検討した方が良いでしょう。