賃金の全額支払の原則【関西精機事件】
関西精機事件 事件の概要
営業不振のため、会社が一時的に休業することになりました。
その間に、従業員に対する給料の未払いがあったので、その支払いに充てるため、会社の代表者の指示を受けて、従業員が在庫品を売却したり、半製品の仕上げ販売を行いました。
そして、休業をして約6ヶ月後に事業を再開し、その従業員は取締役に就任することになりました。
その際、会社は休業中の期間については、従業員に対して1ヶ月につき、7,000円の整理手当を支払う約束をしました。
ところが、会社は、整理手当の一部と取締役に就任した後の報酬の一部を支払っただけで、残りの支払をしませんでした。会社は、従業員が業務を怠ったことにより、会社に損害が生じたため、これらの支払いと相殺をしたと主張しました。
整理手当と報酬の支払いを求めて、従業員が提訴しました。
関西精機事件 判決の概要
労働基準法第24条第1項は、賃金は原則としてその全額を支払わなければならない旨を規定している。これによれば、賃金債権に対しては損害賠償債権をもって相殺することも許されない。
取締役に対して支払われる報酬は賃金とは言えないとしても、整理手当は賃金に外ならない。
解説−賃金の全額支払の原則
従業員が業務を怠ったために、会社に損害が発生したとして、会社が賃金の支払いと相殺をした裁判です。
賃金については、全額を支払うことが労働基準法で規定されていて、損害賠償の請求権があったとしても、相殺することは許されないと判断しました。
賃金が確実に支払われないと、従業員の生活に支障が生じますので、全額支払いの原則が労働基準法により定められています。
昭和30年前後の裁判ですが、このような趣旨から考えると当然の結果と思われます。