賃金の全額支払の原則【福島県教組事件】

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福島県教組事件 事件の概要

学校の教職員が、9月に、職場離脱をして一定時間勤務しませんでした。

しかし、学校はその勤務しなかった時間分の賃金を控除しないで、9月分の賃金と12月の勤勉手当の全額を支払ったため、過払いの状態になりました。

そこで、学校が翌年の1月になって、過払い分の返還を求めたのですが、教職員は応じませんでした。

そのため、学校は、9月分の賃金については2月分の賃金から、12月の勤勉手当については3月分の賃金から、それぞれ過払い分を控除しました。

これに対して、教職員が労働基準法第24条第1項に違反するとして、控除した金額の支払いを求めて訴えました。

福島県教組事件 判決の概要

賃金の支払事務においては、賃金の計算を間違ったり、締切日と支払日の関係で減額できなかったり、賃金の過払いが生じることは避けがたい。このため、後に支払われる賃金から過払い分を控除することには、合理的な理由があると言える。

また、このような過払い分を賃金から控除したとしても、実質的には、本来支払われるべき賃金は全額が支払われたことになる。

したがって、適正な賃金を支払うための相殺は、その行使の時期、方法、金額等から見て、労働者の経済生活を不安定にする恐れがないと認められる範囲内で行われるときは、労働基準法第24条第1項の賃金の全額払いの原則に違反しない。

つまり、

  1. 過払いがあった時期と合理的に接着した時期に相殺が行われて、また、あらかじめ労働者にその予告をしていて、
  2. 相殺をする金額が多額にならない。

要するに、労働者の経済生活の安定をおびやかす恐れがない場合でなければならない。

以上より、勤勉手当については、12月に過払いが生じて、翌月の1月に返還の請求(控除の予告)をして、3月分の賃金から控除したもので有効である。

しかし、9月分の賃金については、返還の請求(控除の予告)をした時期が、過払いが発生した4ヶ月後で、合理的に接着した時期とは認められないため無効である。

解説−賃金の全額支払の原則

賃金は、従業員の生活を支える重要な財源ですので、会社に確実に支払わせて、従業員の生活を不安にすることがないように、労働基準法第24条第1項の規定が定められました。

この「賃金の全額払いの原則」に関しては、一般的に、労働者の賃金債権を、使用者の他の債権で相殺することはできないと考えられています。

ただし、従業員が欠勤や遅刻をしたときは、賃金債権自体が発生していませんので、欠勤や遅刻に応じた時間分の賃金を控除しても、労働基準法第24条第1項の規定に違反することにはなりません。

そして、この判決では、過払い分の控除に関して、

  1. 過払いがあった時期と合理的に接着した時期に相殺が行われて、また、あらかじめ労働者にその予告をしていて、
  2. 相殺をする金額が多額にならない

場合で、労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれがない場合であれば、労働基準法第24条第1項の賃金の全額払いの原則に違反しないものと判断しています。

ただし、それぞれどの程度であれば、「合理的に接着した時期」なのか、「多額」なのか、具体的な基準は示されていません。

なお、これに違反するために過払いの相殺(控除)が認められないとしても、不当利得の返還請求によって、過払い金の返還を求めることは可能です。