賃金の全額支払の原則【福岡県教職員組合事件】

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福岡県教職員組合事件 事件の概要

公立学校の教員に対して、5月21日が給与の支給日だったのですが、その支給対象期間中に欠勤をした日が1日あったにもかかわらず、給与を減額しないで支給したため、1日分の過払いが生じました。

その3ヶ月後となる8月21日に支払う給与から、過払い分を減額して支給しました。

この処理に対して、過払い分の減額は労働基準法で定めている「賃金の全額支払いの原則」に違反すると主張して、減額した給与の支払いを求めて提訴しました。

福岡県教職員組合事件 判決の概要

本件のような、賃金の過払いによる不当利得の返還請求権を自働債権とし、その後に支払われる賃金の支払請求権を受働債権としてする相殺は、過払いのあった時期と合理的に接着した時期に行われ、その金額や方法等が労働者の経済生活の安定を脅かす恐れのない場合に限り、労働基準法第24条第1項本文による制限の例外として許される。

しかも、このような相殺を許容する例外に該当するかどうかを判断する際は、賃金の全額が確実に労働者に渡ることを保障しようとする法律の趣旨を害することがないよう、慎重な配慮と厳格な態度を持って臨むべきで、みだりに例外の範囲を拡張することは、厳に慎まなければならない。

教育委員会は、5月末頃には欠勤の実態を把握していたので、翌月の6月分の給与から減額できたにもかかわらす、7月下旬に減額することを決定し、8月上旬にその旨を教職員組合に通知した上で、減額を行った。

その遅延した主な理由は、減額に反対する教職員組合の圧力を受け、教育委員会が減額することの法律上の可否や根拠等の調査研究をしながら、当時同種の事案を抱えていた東京都の動向を見守っていたところにある。

以上により、本件相殺は、その時期の点において、例外的に許容される場合に該当しない。

解説−賃金の全額支払の原則

どれだけ注意をしていても、賃金の支給額を間違えることは避けられません。支給額が足りなかったときは、翌月分の賃金に加算をして調整をするのが一般的と思います。一方、余分に支払い過ぎた場合も、帳尻を合わせる必要がありますので、正しい金額に調整しないといけません。

この場合の調整の方法が問題になります。労働基準法で定められている「賃金の全額支払いの原則」に違反するかどうかという問題です。原則的には賃金の全額を支払わないといけないのですが、例外に当てはまる場合は、控除して支払うことが認められています。

そして、判例では、次の2つの条件を満たしている場合は、賃金の全額支払いの例外に当てはまるものとして、過払いになった賃金の相殺が認められることが示されています。

  1. 相殺が、過払いのあった時期と合理的に接着した時期に行われていること
  2. その金額や方法等が労働者の経済生活の安定を脅かす恐れのないこと

ただし、これが認められる範囲は限定されていて、この裁判では、3ヶ月後に相殺を行ったのですが、遅れた理由に合理性がないとして認められませんでした。

過払いに気付いたときは、直ぐに対応することが大事です。もたもたしていると合理性がないと判断されて、相殺が認められないようになります。この裁判でも、気付いたその翌月に相殺をしていれば、認められていたと思います。