解雇事由の分類|就業規則の規定例
解雇事由の分類
- 従業員を解雇するときは正当な理由が必要と聞きましたが、正当な理由としては、どのようなケースがありますか?
- 解雇の正当な理由として認められるケースを具体的に列挙することは難しいですが、いくつかに分類することは可能です。
解雇事由の分類
労働契約法・労働基準法
会社と従業員は、労働契約の関係にあります。労働契約とは、従業員が会社の指示に従って職務を遂行して、会社がその対償として従業員に賃金を支払うという契約です。
解雇とは、会社が一方的に労働契約を解約することを言います。反対に、従業員が一方的に労働契約を解約する場合は退職と言います。
そして、労働契約法(第16条)によって、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定されています。
要するに、会社が従業員を解雇するときは、客観的に合理的な理由、一般常識で考えて「解雇されても仕方がない」と認められるような理由が必要ということです。
また、労働基準法(第89条)によって、就業規則を作成するときは、“解雇の事由”を記載することが義務付けられています。
就業規則に解雇の事由を記載して従業員に周知していれば、労使間の契約内容になりますので、従業員は解雇されないよう注意をして、実際に解雇をするときは説得力や納得性が高まります。
それで、解雇については、普通解雇と懲戒解雇に大きく分類できます。懲戒解雇は、就業規則に違反する言動をした従業員に対して、制裁として行うものです。
普通解雇は、従業員に特別な違反行為がない状態で、職務の遂行が不可能になったりして、雇用の継続が困難な事情が生じた場合に行うものです。制裁の意図は含みません。
懲戒解雇については、横領、機密漏洩、経歴詐称、信用失墜行為など、様々なケースがあります。懲戒解雇の事由については、こちらのページで解説しています。このページでは、普通解雇の事由に限定して、以下で説明を行います。
普通解雇の事由を分類すると、次のようになります。当事務所で作成している就業規則の普通解雇の事由です。
なお、解雇の事由が具体的過ぎると、従業員から、「その解雇事由には該当しない」と主張される恐れがありますので、就業規則を作成するときは、ある程度は抽象的な表現になります。
精神又は身体の障害により、業務に耐えられないと会社が認めたとき
病気やメンタルヘルスの不調等が原因で、従業員が職務を遂行できないときは、労働契約が成立しません。労働契約に違反している状態ですので、改善の見込みがなければ、会社は労働契約を解約(解雇)できます。
ただし、就業規則で休職の規定を設けている場合は、休職制度を適用して、一定期間は解雇を猶予することになります。
能力不足又は勤務成績が不良で、業務に適さないと会社が認めたとき
能力不足等が原因で、従業員が職務を遂行できない場合です。この場合も、労働契約が成立しませんので、原則的には、解雇が可能です。ただし、能力不足の程度によりますし、解雇をする前に丁寧に指導や教育を行う必要があります。
それで、能力の向上が見込めないとしても、裁判例に照らし合わせると、解雇は認められにくいです。解雇は最終手段と考えられていますので、雇用を維持するために、配置転換を検討することが求められます。
なお、採用後に能力不足を理由に解雇する可能性がある場合は、採用面接の際に前職の内容を詳しく聴いたり、試験をしたりして、業務に必要な能力や技術を備えているか確認してください。
勤務態度が不良で、指導を行っても改善の見込みがないと会社が認めたとき
会社の業務命令を拒否したり、さぼったり、勝手に離席したりする場合も、労働契約が成立しませんので、原則的には、解雇ができます。ただし、急に解雇をしても認められません。繰り返し注意や指導をして、改善の見込みがないと認められる必要があります。
欠勤や遅刻を繰り返す場合も、これに該当します。所定労働日、所定労働時間に勤務をすることは、労働契約が成立する前提となる行為です。遅刻や欠勤は契約違反です。
なお、解雇が有効と認められるかどうか、欠勤や遅刻の頻度に一定の基準はありません。会社が行った注意や指導の経緯、欠勤や遅刻をする理由、病気の有無、悪影響が生じた内容等を考慮して、その都度の状況に応じて判断されます。
協調性がなく、他の従業員の業務遂行に悪影響を及ぼすとき
会社は組織として機能するものですので、従業員同士、労使間の信頼関係が欠かせません。自分の考えに固執したり、高圧的な態度を取ったりしていると、事業運営に支障が生じます。
職場の秩序を乱すものですので、組織から締め出すこと(解雇)が考えられます。ただし、解雇が有効と認められるかどうかは、会社に及んだ悪影響の程度、正当な理由の有無、他の従業員の要望や相談等によります。
事業の縮小、その他事業の運営上やむを得ない事由のあるとき
リストラや整理解雇と呼ばれるものです。賞与の停止、新規採用の停止、残業の抑制、希望退職の募集など、様々な手段を講じても業績が改善しない場合に、最終手段として考えられます。
人員整理をしなければ会社を維持できないような場合は、解雇は有効と認められやすいですが、整理解雇は従業員に落ち度がありませんので、これまでの裁判例によって、いくつかの要件をクリアすることが求められます。
特定の能力又は一定の成果を条件として雇い入れた者で、その条件を満たさないとき
他社からスカウトした人材など、高度な能力を持った従業員として、一定の成果や役割を期待して、高額の賃金で雇い入れるケースがあります。
その場合は、高額の賃金に見合った働きをしたかどうかという基準が加わりますので、一般従業員の能力不足のケースより、解雇は認められやすくなります。
ただし、定めていた目標が達成されなければ解雇する、具体的な目標を設定するなど、事前にトラブルが生じないように工夫をすることが重要です。
試用期間中又は試用期間満了時に本採用が不適当と会社が認めたとき
試用期間中の解雇は、本採用後に行う解雇より、正当と認められる範囲が広いです。
試用期間の項目で、本採用拒否(解雇)の事由を列挙しておけば、本人が該当するかどうか判断できますので、実際に本採用拒否(解雇)を言い渡すときに説得力や納得性が高まります。
また、試用期間は教育期間でもありますので、試用期間中に丁寧に指導や教育を行うことが重要です。
その他会社の従業員として適格性がないと会社が認めたとき
以上のどれにも該当しないケースであっても、従業員としての適格性がない場合(=雇用を継続できない事情がある場合)は、解雇は有効と認められます。
就業規則に記載していない事由で解雇することはできませんが、全ての事由を記載することは不可能ですので、就業規則の解雇事由の最後にこのような包括的な規定を設けることが大事です。
このような規定を設けておけば、想定外の出来事が生じたときに対応できます。
執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。