飲酒運転と懲戒解雇|就業規則の規定例

飲酒運転と懲戒解雇

  • 飲酒運転をした従業員は、解雇したいと考えています。就業規則の懲戒解雇の事由に記載しても問題はないでしょうか?
  • 飲酒運転をしたことを理由に懲戒解雇をしても、通常は認められません。解雇は無効と判断される可能性が高いです。

飲酒運転と懲戒解雇

従業員が横領をしたり、上司に暴力を振るったりしたときは、職場の秩序を著しく乱す行為ですので、そのような者は職場から排除するべきと考えるのが普通です。就業規則の懲戒解雇の事由に定めていれば、通常は、解雇は有効と認められます。

しかし、職場外の私生活上の違法行為に対して、原則的には、会社は懲戒処分を行えません。プライベートは従業員が自由に利用できる時間ですので、会社が従業員の行動を制限したり、禁止行為を設定したりすることはできません。

原則的にはそうですが、在籍している従業員の違法行為が世間に広まって、会社の信用を失墜したり、職場の秩序を乱したりして、会社に損害や業務上の支障が生じたときは、例外的に懲戒処分を行えます。例えば、性犯罪者については、周囲の者が許容できなくて、業務に支障が生じることがあります。

懲戒処分を行える場合の懲戒処分の重さは、違法行為の程度によります。過去の裁判例では、社外で刑事事件を起こして罰金刑に留まったケースは、懲戒解雇は無効と判断される傾向があります。ただし、性犯罪については、懲戒解雇は比較的有効と認められやすいです。

飲酒運転をした場合も同様の考え方で、一緒に会社名が報道されたりして、会社の業務に影響が及ばなければ、懲戒処分は認められません。

就業規則に、懲戒解雇の事由として、「酒酔い運転又は酒気帯び運転を行ったとき」と定めていても、根拠にはなりません。

労働契約法(第15条)によって、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする」と規定されていますので、法律の方が優先されます。

つまり、最初に説明したとおり、損害や業務上の支障の有無を考慮して判断されます。実際に懲戒処分を行うかどうかは別にして、注意喚起のために、就業規則に記載するのであれば問題はありません。

なお、労働契約法の懲戒の規定の「社会通念上相当である」とは、平易な言葉で言い換えると「一般常識で考えて妥当である」です。ここ数年、飲酒運転に対して厳しい目が向けられていますので、会社が厳しい処分をしても、徐々に認められるようになっていくかもしれません。

一方、運送業やバス・タクシーの運転手として採用された従業員については、運転免許証の取消しや停止の処分を受けたときは、業務に支障が生じますので、懲戒処分は可能と考えられます。

また、運転の業務に"限定して"採用した者については、飲酒運転等によって、運転の業務が不可能になったときは、普通解雇を検討することも考えられます。

私生活上の飲酒運転は以上のとおりですが、勤務時間中の飲酒及び飲酒運転については、別です。

職場の秩序を乱す行為で、業務に支障が生じますので、懲戒処分の対象とすることができます。もっと言うと、会社が懲戒処分をしなければ、会社は飲酒や飲酒運転を黙認していたと受け取られかねません。

就業規則を作成するときは、懲戒処分の事由として、

といった内容を規定しておくと良いでしょう。


執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。

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