退職と解雇の違い|就業規則の規定例

退職と解雇の違い

  • 当社の就業規則を見ると、「資格喪失」という項目があって、退職と解雇の事由が並んで記載されています。退職と解雇は区別しなくても良いのでしょうか?
  • 退職も解雇も、従業員の資格を喪失(離職)することは同じですが、解雇に該当する場合は、労働基準法や労働契約法による制約がありますので、会社は区別して対応する必要があります。

退職と解雇の違い

退職とは

退職というと、自己都合退職が連想されると思います。文字どおり、自己の都合で退職するものです。通常は、「一身上の都合により、...」と書いた退職届を会社に提出して行います。

また、定年退職もあります。一定の年齢に達することによって、自動的に退職が成立します。なお、現在は、高年齢者雇用安定法によって、会社が就業規則に定年の規定を設ける場合は、60歳以上とすることが義務付けられています。

休職期間の満了による退職も同様に、就業規則に休職に関する規定を設けて、休職期間が満了しても復職できなかった場合は、自動的に退職が成立します。

契約期間の満了による退職もあります。例えば、1年契約で雇用契約を締結して、更新しない場合は、退職扱いになります。契約期間の満了による退職については、“雇止め”と呼ぶことがあります。

他には、死亡による退職があります。従業員が死亡すると、労働契約は解消しますので、自動的に退職することになります。

会社の役員に就任する場合は、通常は従業員としての身分がなくなります。労働基準法上は、雇用・使用される側の労働者から、雇用・使用する側の使用者に転換するもので、これも退職に該当します。

解雇とは

解雇とは、会社から一方的に労働契約を解約するものを言います。それ以外の、従業員から一方的に労働契約を解約するもの、一定の事実が到来したときに自動的に労働契約を解約するものは退職に該当します。

そして、解雇については、更に、懲戒解雇と普通解雇に分類されます。

懲戒解雇は、従業員が横領をしたり、機密漏洩をしたり、重大な違反行為をしたときに、制裁として行うものです。

ただし、懲戒処分(懲戒解雇を含みます)を行う場合は、会社は就業規則を作成して、懲戒に関する規定を設ける必要があります。就業規則に基づかない懲戒処分は無効になります。

また、就業規則に、懲戒処分の1つとして諭旨退職を定めている場合があります。懲戒解雇に相当するような重大な違反行為をした従業員に対して、情状を考慮して、自発的に退職させようとするものです。会社が諭して、本人が退職届を提出すれば、退職扱いになります。

一方、普通解雇は、制裁を目的としないで、雇用を継続できない事情(会社が指示した業務を行えない状況)が生じた場合に行うものです。重大な違反行為を伴わないケースで、一般的には、心身の不調、能力不足、勤務態度不良、協調性の欠如等が解雇事由として挙げられます。

特定の従業員を対象とするものが多いですが、経営上の問題で、事業の継続が困難な状況になった場合に行う整理解雇(リストラ)も、普通解雇に該当します。

そして、解雇に該当する場合は、労働基準法、労働契約法、育児介護休業法によって、次のような制限が設けられています。

労働基準法と解雇

労働基準法(第20条)によって、従業員を解雇するときは、30日以上前に予告をするか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うことが義務付けられています。

退職の場合は、本人が退職日を指定したり、就業規則に退職日が明示されていますので、退職に向けて準備ができます。しかし、解雇の場合は、会社が一方的に行いますので、準備ができません。その準備のために、30日の期間又は賃金の猶予を与えることになっています。

労働基準法(第19条)によって、業務上の傷病により休業する期間プラス30日、産前産後休業をする期間プラス30日は、解雇が禁止されています

これらの期間は再就職が困難ですので、休業に専念できるように、原則として、解雇が禁止されています。

労働契約法と解雇

労働契約法(第16条)によって、解雇は、客観的に合理的な理由がなくて、社会通念上相当と認められない場合は、無効になることが定められています。

会社が解雇をする場合は、一般常識で考えて「解雇されても仕方がない」と認められるような理由が必要ということです。従業員が自己都合退職をする場合は、一身上の都合で退職できますので、特に理由は必要とされません。

育児介護休業法と解雇

育児介護休業法(第10条第16条)によって、育児休業や介護休業の取得等を理由にして、解雇をすることが禁止されています。

退職と解雇の判別

退職に該当する場合は、以上のような制約はありません。したがって、立場によって大きな違いが生じますので、退職に該当するのか、解雇に該当するのか、という判別が重要になります。

会社にとっては、退職扱いにできた方が、都合が良いです。解雇に関連する制約がありませんし、後から解雇の無効を訴えられる心配がありません。従業員が退職届を提出すれば、退職扱いにできます。

従業員にとっては、解雇扱いにできた方が、都合が良いです。解雇予告の規定が適用されますし、ハローワークの失業給付が有利になります。場合によっては、解雇の無効を訴えられる余地があります。

そして、就業規則の「資格喪失」という項目です。

キノシタ社会保険労務士事務所において、これまで多くの就業規則を診断してきましたが、「資格喪失」という項目を設けて、退職及び解雇の事由を並べて記載している就業規則を何度か見掛けました。1回2回ではありませんので、モデル就業規則として出回っているのかもしれません。

上で解説したとおり、会社が解雇する場合は、法律上の様々な制約がありますので、それらをクリアして対応しないといけません。退職か解雇かどちらに該当するかによって、法律的な意味合いが大きく異なります。

しかし、退職と解雇の事由を一緒に列挙していると、どちらに該当するのか曖昧になって、トラブルの原因になる恐れがあります。どのような意図があってそのようにしているのか分かりませんが、退職と解雇は項目を分けて、就業規則を作成した方が良いと思います。


執筆者 社会保険労務士 木下貴雄
2002年にキノシタ社会保険労務士事務所を開業し、就業規則を専門として、業務に取り組んできました。現在は、メールによるサービスの提供に特化して、日本全国の中小零細企業のサポートを行っています。

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